第165話 お店を閉める

鈴木希の言うことはもっともだったが、北原秀次はまだ受け入れたくなかった——鈴木希が誠実そうに話していても、協力というのは双方の実力が対等な時にこそ成り立つもので、鈴木希は明らかに子分を集めようとしているだけだった。そして彼は誰かの子分になる気など毛頭なかった。

彼は一人で十分だった。誰かに仕える必要などなかった。

彼は鈴木希を無視し、冬美に指示を出した。「暖簾を掛けて！」営業を始める準備だった。鈴木希というベタベタした存在がいようといまいと、稼ぎは稼がなければならない。

内田雄馬は食事を終えて口を拭うと先に立ち去った。ここにいる大物たちは誰も刺激できない存在だったので、逃げるが勝ちだと判断したのだ。しかし鈴木希は急いでおらず、黙々と食事を続けながら話題を変えて尋ねた。「北原君、ここで週にいくら稼いでいるの？うちで個人シェフとして働いてもらえれば、その3倍の給料を出すけど、どう？」

彼女も不思議に思っていた。理屈では家のプライベートシェフも名シェフで、食材もより高級なはずなのに、どうしてこんな満足感が得られないのだろう？

正直なところ、彼女は本当に北原秀次を料理人として引き抜きたかったのだが、ずっと黙っていた春菜が突然警戒し始め、少し暗い表情で鈴木希を見つめながら静かに言った。「北原お兄さんは私たちの家族です。お客様、そんな失礼な話はやめてください！」

目の前で引き抜きを図るなんて、福沢家を何だと思っているの？こんな侮辱は許せない！

鈴木希は興味深そうに春菜の曇った表情を見て、軽く笑って言った。「家族？感情で北原君を縛り付けて働かせているってこと？彼の実力からすれば、こんな小さな店にいるのは勿体ないと思わない？あなたたちに何が提供できるの？」

春菜も負けじと反論しようとしたが、北原秀次が軽く彼女の肩に手を置いて、口を挟んだ。「私はここにいたいからいるんです。それは貴女の心配することではありません、鈴木さん」少し間を置いて、さらに微笑みながら続けた。「私たちは商売をしています。食事をしに来られるのは構いません、当然のことです。でも、あまりに無礼な場合は追い出されても、それも当然のことです……そうですよね、鈴木さん？言葉遣いにはご注意ください、お願いします」

鈴木希は注意深く北原秀次を観察した。北原秀次はただ笑顔を保ったまま、彼女の視線から逃げることはなかった。しばらくして鈴木希は確信した。北原秀次は本気だった。彼は福沢家の娘たちに対して何らかの保護義務があると考えているようで、福沢家の娘たちへの挑発は彼の底線を超え、不快にさせていた。

彼女はまだ北原秀次と福沢家の間に何か特別なことがあったのかを突き止められていなかったが、状況を察して笑いながら言った。「その通りですね、北原君。でも、どうして福沢家とそんなに親しいのか、教えていただけませんか？」

この男子学生は自分のことについては随分と寛容で、忍耐強く落ち着いていて、大将らしい風格があった。しかし福沢家のことになると明らかに忍耐力が低くなる。面白い……

北原秀次は笑いながら気軽に答えた。「男同士の友情さ、説明しても分からないよ」

福沢直隆はあっさりと意識を失い、一言も残さずに入院してしまったが、言葉にする必要のないこともある。北原秀次は直感的に、彼が最も心配しているのは家族の子供たちだということが分かった。だから自分にできる範囲で家族の面倒を見るのは当然のことだった——以前、陽子が事故に遭った時、福沢直隆に養子縁組の名義を借りた時も、余計な質問一つせずに承諾してくれた。だから今、彼も余計なことは言わない。

もちろん、あの老狐が目を覚ましたら、福沢家のことは彼の関係するところではなくなる。その時は潔く身を引けばいい。永遠の約束事じゃないんだから、面倒なことじゃない。

前世では彼はほとんど誰からも助けを受けたことがなかった。彼を助けることに何の得もなかったからだ。だから今世では、無償で何度も助けてくれたあの老狐を大切に思っている。少なくとも福沢直隆に、間違った人を助けたと思わせたくなかった——おそらくこの世には善行に報いがあるという考えはもう存在しないだろうが、少なくとも彼は、自分を助けてくれた人々に何らかの形で恩返しがしたいと思っていた。

かなり幼稚な考えかもしれないが、それでも彼はそうしたかった。

鈴木希は男同士の友情なんて信じていなかった。そんなものは彼女から見れば完全な嘘だった。ただ北原秀次が話したくないだけだと思ったが、それも構わなかった。どうせいずれ分かることだと確信していたから。

実は彼女も北原秀次でなければならないというわけではなかったが、やりたいことは必ず成功させる自信があった。北原秀次を動かせないはずがないと本気で思っていた——現時点で北原秀次は彼女にとって大きなおもちゃのようなもので、それが北原秀次が心の中で彼女に反感を持っている理由でもあった。

冬美が暖簾を掛け終わって店内に戻ると、すぐに客が入り始めた。この時期は常に商売が極めて良く、冬美も気にせず笑顔で深々と頭を下げて客を迎えた。しかし、来店した人々の全てが食事や飲酒目的ではなかった。その中の二人が彼女に尋ねた。「福沢冬美さんでしょうか？」

冬美は少し不思議そうに答えた。「はい、そうですが、あなたたちは？」

その二人は同時に身分証を見せた。「私たちは家庭裁判所の調査官です。私が相馬で、こちらが池原です。今回は福沢直隆さんの禁治産の件でお伺いしました」

冬美は理解できず、困惑して尋ねた。「家庭裁判所？禁治産？それが父とどんな関係があるんですか？」

鈴木希もそれを聞いて、にっこりと振り返って言った。「この子ったら、本当に無学ね……お父さんの後見人の権利が失われたの。彼らはお父さんの財産を凍結しに来たのよ」