アルファグループ

ここは聖エミリオン魔法学院の生徒たちが入学した最初の日の様子を書きます。

初級レベル、中級レベル、上級レベルを問わず、セントエミリオン魔法学院は一般の学校と同様に12年制の教育システムを採用していることに注目する必要があります。初級レベルでは生徒は男女別に分けられています。

初級レベルを卒業すると、校長と教員が即座に生徒の能力に基づいてグループ分けを行います。中級レベルに進むと、のちにグループメンバーとなる2人の生徒と同じ寮に入ることになります。

男女ともに、他の部門の生徒で自分と同じクラスになった者が誰かを知ることができます。

しかし、男子グループと女子グループではどのグループと合同になるかはわかりません。

セントエミリオン魔法学院では現場実習型の教育システムを導入しており、男女異なる部門のグループが合同され、卒業生がメンターとなります。これは双方が協力し合えるようにするための制度です。

通常、18人(3グループ)で構成されるクラスが大きな進歩を遂げた場合、標準的な卒業時期よりも早く卒業を許可されることがあります。

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「私の名前は奏。マージョリークラスの担任です。ここで中級レベルのシステムについて説明します。昨日選んだグループを皆さん3人で指導することになります。また、ホーリーズの習得による生徒の能力向上も観察してください」とマージョリークラスの担任カナデが説明した。

「了解しました」3人は言った。

そしてカナデは3人をマージョリークラスの教室に連れて行った。

教室のドアを開けた瞬間、前に机が叩きつけられる音に驚かされた。

「バァァン!」

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1時間前、マージェリークラスの生徒たち、秋子、花田、ザクロを含めて教室に入ってきた。そして着席場所を選んでいた。

「明子ちぃ、後ろの方が良いかな?」柘榴が提案した。

「そうだな。後ろの方が落ち着いて休めるよ」明子は柘榴の提案に同意した。

「教室に居る時間は短いだろうし、時々は校外で実地訓練を受けに呼ばれるわ」花田が言った。

「問題ないさ。落ち着いて座れる席を選ぶのは大事だ」秋子が答えた。

「特にあのバカ3人と同じクラスになってしまったのにはまだショックだし」明子は心の中で思った。

そして3人は後ろの隅っこの席を選んだ。

「私はここに座るわ」柘榴が選んだ席を指さした。

「私はここね」花田も選んだ席に手をかけた。

「で、私は...」

明子が席に手をかけた時、誰かの手も同じ席を掴んでいて、視線が合った。

「お前と同じクラスになるとは思わなかったな」左介が席の片側を掴みながら言った。

「それこそこっちのセリフよ。能力の差があるくらいだし、あんたらみたいな無能が私と同じクラスはおかしい」秋子は握らずにいた反対側を掴みながら返した。

2人はそのまま席を掴んだ状態で視線を合わせ合った。

「もういい加減にしろ。左介、別の席を探そう」五十嵐が仲裁しようとしたが、左介は無視した。

「嫌だ」

「明子ちぃ、あっちの席はどうかな?」ザクロが自分の隣りの席を指さした。

「私はこの席が良い」明子はまだ離そうとしなかった。

「二人とも、わがままは卒業してくれ」花田が止めに入った。

しかし6人に気づかれずに、すでに教室中の注目を集めていた。

一方でガラの悪い2人はそのままモメ続けていた。

「うるさい女、オレの前から消えろ」サスケが嘲笑った。

「こっちから言わせてもらう、この野郎。私の席を離せ」明子が返した。「私が立ち去る。その席を私に離せ」と続けた。

「断る」左介が返した。「お前の方が立ち去れ。その席は俺にくれ」と続けた。

「私がそんなことできるわけない。この雑魚野郎」明子が罵った。「この席は私のものなんだ」と続けた。

「消えろ。その席は俺のものと諦めろ」左介が返した。

気づかないうちに明子は席を前に投げ飛ばし、左介以外の全員を驚かせた。

「最初にあんたに教訓を植え付けないと」明子が怒って言い、自身の鉄球を取り出した。

「ふん、愚か者」左介はすでに手に取り矢や小さな針を準備していた。

「お前たち、もうそれ以上愚かな真似はするな」今まで黙っていた桜庭が、2人が武器を構えていることにパニックになった。

明子と左介がもし攻撃し合おうものなら、教師が教室に入ってきて止めた。

「明子さん、左介さん。武器を下ろすか、今すぐ私の教室を出て行きなさい」カナデが介入して2人の潜在的な戦闘を止めた。

そして2人は武装を解いた。明子は投げた椅子を拾い直した。

その後、外にいた3人のメンターが入室を許可された。

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勉強グループの割り振りが終わると、3つのグループに半円を描くように整列するよう指示された。アルファグループも同様に、秋子とサスケは喧嘩を避けるため、両端の端っこに座った。

「それでは。自己紹介をさせてもらう。私の名前はアズナ。皆さんの指導を任された者です。さて、それぞれの皆さんをもう少し知りたいと思います」アズナが挨拶し、生徒に自己紹介を求めた。

「IDカードを渡せばいいんじゃないか?」桜庭が提案した。

「コミュニケーションは大切だ。言葉で自己紹介してもらいたい」アズナは丁重に断った。

「俺たちは構わないが、あの2人の態度にはもう疲れている。お互いの感情を刺激し合うだけだろう。だからこの折衷案を検討してくれ」五十嵐が理由を説明した。

「すまない。それはできない」アズナははっきりと断った。

「では始めは君からだ」アズナが秋子を指して言った。

「光朝明子、14歳。初級時代はテラクラスの卒業生です」

「次は?」

「東左介、13歳。オリオンクラスの卒業生だ」

「氷山五十嵐、14歳。オリオンクラスの出身だ」

「春咲桜庭、14歳。私もオリオンクラスの卒業生です」

「私の名前は園花田です。13歳です。テラクラスの卒業生です。よろしくお願いします」

「私の名は果実美柘榴、12歳。テラクラスの卒業生です」

サスケ、五十嵐、桜庭、花田、柘榴と続いて自己紹介が行われた。

「とりあえず皆さんと顔合わせをしたかったので。今日の午後は聖エミリオン魔法学院プライドユニフォームを着用の上、066基地に集合してください」アズナが説明を終え、他の2人のメンターに続いて退室した。

「それでは皆、こちらを向いてください」カナデが指示し、全員が自分の方を向いた。

「今日から皆さんは魔法使いとしての人生が始まりました。まだ素人レベルですが、もはや個人の娯楽のための魔法を使う初級レベルではありません。中級レベルでは週3日は学校で、残り3日はメンターと共に現場実習をするようになります。3日以上の現場実習の機会があれば、学校の職員から許可証を発行してもらう必要があります。そして都市局の職員から正式な証明書を提出し忘れないように」カナデが説明した。

「理解した?」奏が続けた。

「理解しました!」18人の生徒が返事した。

「明子さん、左介さん。授業後、職員室に来なさい」奏が2人のトラブルメーカーに指示した。

「わかりました」2人はあくびをしながら答えた。そして軽蔑するようにお互いを見つめ合ってから視線をそらした。

「チッ」と2人は舌打ちした。

残りの4人はその光景にため息をついた。

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休み時間に、秋子とサスケは職員室に呼び出され、桜庭とザクロが付き添って対立を防いだ。

五十嵐はこの機会に聖エミリオン魔法学院プライドユニフォームに着替えた。普通のユニフォームとは違い、左胸に細かく翼の模様が描かれた紫色のリボンが付いていた。外側と内側に太ももまでの長さの赤いケープが付き、両側を金色の紐で繋がれていた。今年彼ら世代のSt.EMAPUは赤黒とグレーを基調とした色合いだった。サスケは職員室の近くの校内のベンチで彼らを待っていた。

「隠れているのはもういい。出てこい」五十嵐が木の陰から誰かを呼んだ。

すると、木の陰からSt.EMAPUを着た花田が現れた。女子は男子とは異なり、背中までの長さのケープだったが、色は同じで赤いリボンが付いていた。そして花田は五十嵐に近付いた。

「よくお似合いですね、五十嵐くん」花田が微笑みながら褒めた。しかし五十嵐は花田の賞賛に答えず、黙って前を見つめていた。

「五十嵐くん」花田が柔らかく呼びかけた。

「ん」五十嵐は無表情で返した。

「私たち、昔みたいに6人で仲良くできないかしら? 出身を問わず友達でいられた時代が。柘榴ちゃんと左介くんがふざけて、あなたや明子ちゃんに怒られる。私と桜庭くんはそれを見守るばかりだったけど」花田は懐かしそうに過去を振り返った。

「過去は過去でしかない」長い沈黙の末、五十嵐が答えた。

「えっ?」

「お前と秋子、そして 柘榴。みんな同じだ」五十嵐は声を少し上げて続けた。「五十嵐、くん」

「何か?」五十嵐は花田に当たり散らした。

花田は五十嵐に言いたいことがあったようだが、もう黙り込んでしまった。

「私たちが間違っていたのなら謝る。でも和解したいわ」花田は非常に控えめな口調で言った。「それに私も...」

「何しているんだ?」左介の声が五十嵐と花田の会話を遮った。

「終わったのか?」五十嵐は席から立ち上がり、サスケと桜庭に訊ねた。2人は頷いて答えた。

「行こう」五十嵐は言い残し、花田の元を離れた。そしてサスケと桜庭に続かれた。

「花田、明子と柘榴が寮の部屋で待っているって言っていた。そんなに長居するなよ。30分後には066基地に集合だからな」桜庭が花田に言い残し、2人の友人に付いて行った。

涙を抑えきれない花田は、女子寮に戻った。

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「花田、どこを歩いていたの?」明子が柘榴のケープと胸元の エンブレムの着け方を調整しながら尋ねた。

「ちょっと散歩をしていただけです」花田はベッドに座りながら答えた。

「五十嵐のところに行ってきたんじゃないでしょうね?」秋子が確認した。

「ち、違うわよ」花田は否定した。

明子は花田が嘘をついていることがわかった。花田の口調から、五十嵐が何か心無い言葉を浴びせたのだろうと推測できた。しかし明子は黙っていた。

「できたわ」明子が柘榴のSt.EMAPUの調整を終え言った。そして3人は扉に向かい、開けた。

「行きましょう」明子が仲間を招いた。

花田と柘榴は頷いてすぐに明子に続いた。

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「おい、五十嵐」桜庭が呼びかけ、五十嵐の隣に座った。

現在、サスケが着替えを済ませるのを待っている最中だった。

「お前と花田の間で何があったんだ?」桜庭は好奇心から尋ねた。

「関係ないだろう」五十嵐は手短に答えた。

桜庭にはため息しかでなかった。このままでは6人の友情は救えそうにない。

「時々は花田の言うことを聞いてやれよ。お前、昔は花田に優しかったじゃないか。なんであんなに変わってしまったんだ?」桜庭は五十嵐と花田を案じた。

「黙れと言っているだろう」五十嵐は更に顔を伏せた。

「この問題は口にするな」五十嵐が求めた。

「ギィィ」

洗面所の方から、St.EMAPUに身を包んだ左介が現れた。五十嵐はサスケに近づき、ずれたオレンジ色のリボンを整えた。

「もうおっさんなんだから、服装にも気を付けろ。甘えるのはもう卒業しろ」五十嵐が言うと、左介は直ぐ笑顔で答えた。

「ごめんね」左介は何も悪びれた様子はなかった。

遠くから見守っていた桜庭は笑顔を浮かべるだけだった。

「行こう」五十嵐が左介のリボンの調整を終え、それから部屋を出て行った。左介と桜庭に続かれて。

彼らには気づかれなかったが、五十嵐の頬を1粒の涙が伝っていた。

つづく...