「ジリンゴスの不思議なアイテムというのは、何が不思議なのかしら?」オードリーが自信ありげに尋ねた。
考えてみれば、自分はベークランドに、人探しに使えるかなり強力なコネがあると気づいたのだった。
何と言っても、オードリーの父親は貴族の中でもトップレベルの大富豪で、名声と人脈をほしいままにしている。オードリー自身も、若い世代でスターのような存在であるゆえ、中・上流社会において、その気になれば利用できる人脈は非常に多い。
さらに、知り合いの超越者2人もそれぞれがネットワークを持っている。「学徒」フォルスは元々は診療所の医者、今は新人作家として活躍しており、文学界、出版業界、中産階級としての医者に知り合いが大勢いる。
「仲裁者」ヒュー・ディルチャは、長い間中・下層の民衆のために事件の仲裁や調整を行ってきたことから、ベークランド東区、労働者階級、それに少なからぬマフィア組織の間ではちょっとした有名人で、秘密のツテもたくさんあるらしい。
彼女たちがコンタクトを取れる他の超越者や、その超越者たちが持つネットワークまで加えれば、人探しに投入できる人脈はかなりの規模に膨れ上がる。
「正義」に質問を投げかけられた「吊された男」アルジェは、ほぼ迷うことなく即時に答えを投げ返した。
「その不思議なアイテムの正式名称は世に知られていません。ですが、その存在を知っている人々は皆『うごめく飢餓』と呼んでいます。ジリンゴスは1日おきに必ず、生きた人間の魂と血液を与えています。さもなければ、持ち主であるジリンゴス自身がそれを与えなければならなくなるからです。」
「それはジリンゴスを探す重要な手がかりになるわね。」オードリーはわずかに眉をひそめて言った。
生きた人間の血と魂を欲しがる邪悪なものなど、オードリーは心の底から気持ち悪いと感じて嫌悪した。
「はい。しかし、500万人もの人口を抱える大都市で、ホームレスが数人行方不明になったとしても、気に留める人はいないかと思われますが。」アルジェはそう注意喚起すると、少し話題を変えた。「『うごめく飢餓』を手に入れてからというもの、ジリンゴスはかなり厄介な存在になりました。」