第174章 自惚れは遺伝するのか?

藤本凜人の視線が突然熱を帯びてきた。

  彼は甘い言葉を思いついた:

  ——君から何かを借りたいんだ。

  ——何を?

  ——そうすれば、一生君に借りができるから。

  まさか、この女もこんな手を使うのか?

  結局、寺田芽の話し方は、とてもスムーズだったし……

  妄想に耽っていた藤本凜人の唇が少し上がった。彼は背筋を伸ばし、笑いながら答えた。「何を借りたいの?」

  「髪の毛を2本。」

  藤本凜人:???

  彼は少し戸惑いながら寺田凛奈を見つめた。すると彼女は真剣な表情で彼を見て言った。「うん、記念として残しておきたいの。」

  藤本凜人:!

  彼は目の前の男を見つめ、突然少し腰を曲げ、両手を膝に置いて頭を下げた。「いいよ、じゃあ抜いて。」

  男が突然頭を下げて近づいてきたので、寺田凛奈はびっくりした。

  そして彼女は男の髪の毛を見た。

  彼が使っているシャンプーはバニラの香りで、とても爽やかで、べたつく匂いもなかった。そして男の髪質は、彼の人柄と同じように、1本1本がはっきりとしていて、黒くて硬かった。

  寺田凛奈は手を伸ばし、髪を抜いても痛くない部分を見つけて、2本抜いた。

  触れた髪の毛は少し刺激があった。男がこうして頭を下げているので、少し曲がった首のところで喉仏が特に目立っていた。彼は少し上目遣いで、その深く底知れない眼差しで、今は従順な様子で小さな子犬のようだった……飼い主の摘み取りを待っているかのように……げほっ、考えすぎだ。

  寺田凛奈は抜き終わると、2歩下がった。彼女は口を開いた。「終わったわ。」

  藤本凜人は笑った。「もっと欲しくない?」

  「あなたはハゲるのが怖くないの?」寺田凛奈は反論したが、言い終わった後でこの言葉が親密すぎると感じ、また視線を外した。

  藤本凜人はようやくゆっくりと立ち上がり、彼女が慎重に髪の毛を袋に入れるのを見て、やっと何かを理解したようだった。

  彼は低く笑いながら言った。「では、寺田さん、失礼します?」

  「うん、行ってね。」