第145章 木田柚凪……ママ???

高級VIP病室は入院棟の最上階にあり、エレベーターホールが使用中だったため、木田柚凪は急いで階段を使うことにした。そのため、寺田真治に出くわすとは思ってもみなかった。

一方、寺田真治は急用があって階下に行く必要があり、同じく階段を使っていた。

今、寺田真治は上に立ち、木田柚凪を見下ろし、木田柚凪は下に立ち、彼を見上げていた。

二人は目が合い、しばらくの間言葉を交わさなかった。

木田柚凪は急いでここまで来たが、芽が重病にかかっていないかと心配だった。今、寺田真治のあの馴染みの顔を見て、心の中の悔しさが思わず増してしまい、瞬く間に目が赤くなった。

5年前、彼女はこの男性を自分の支えにすることができた。

5年後、この男性は既に別の女性の支えになっていた。

この考えが、木田柚凪の溢れそうになった涙を押し戻させた。彼女は目を伏せ、寺田真治を避けて階段を上がろうとした。

寺田真治は彼女を見つめた。

女性が彼を見た瞬間、その表情には少し愛着が含まれていた。それは彼に昔のことを思い出させた。彼女が教授に叱られたり、何か困難に遭遇したりするたびに、いつも真っ先に彼のところに来ていた。

彼に抱きついて泣き、彼に抱きついて笑う。

いつも彼と気持ちを共有していた。そして今、彼女は彼に駆け寄って抱きつきそうに見えた。

しかし、ほんの一瞬で、女性の心は変わり、目つきは冷たくなり、彼の傍を通り過ぎようとした。

彼女が身につけているバラの香りのボディソープの香りが鼻孔をくすぐった。その香りは非常に馴染み深く、久しぶりで彼の目を痛くさせ、かすませた。

木田柚凪はこの男性を素早く通り過ぎ、病室に急ごうとした。

この階段には誰もおらず、一枚のドアが外の廊下の騒がしさを遮っていた。

このような閉ざされた小さな空間で、彼女はこの男性の心臓の鼓動さえ聞こえるような気がした。階段が狭いため、二人がすれ違う時、木田柚凪は少し体を横に向けた。

そしてその時、男性は突然彼女の腕をつかんだ。「柚凪、藤本凜人と寺田凛奈に関係があることを知っているのか?」

木田柚凪は最初その言葉の意味が分からず、眉をひそめた。「彼らの関係はまだ公にできないものよ。どうしたの?」