福山さんは言葉を失った。
当時、藤本凜人が突然息子を持つようになったことは、大きな反響を呼んだ。
佐竹璃与はそれを知り、彼が来たときに尋ねた。「子供のお母さんは誰?」
藤本凜人はその時、冷たい態度で答えた。「子供に母親がいるかいないかで何か違いがあるのか?」
佐竹璃与は言葉に詰まった。
彼女は分かっていた。その時の藤本凜人は、いつも外に隠れて家に帰らない母親である彼女を非難していたのだと。しかし、彼は彼女の苦心を全く理解していなかった。
彼女が帰らないのは、むしろ彼を守るためだった。
藤本凜人は彼女に対してずっと冷淡な態度を取っていた。子供の頃に来るときも、時間通りで、藤本家とすでに約束していたものだった。
ここ数年で少し変わってきて、たまに彼女を見に来るようになったが、母子二人に話すことはあまりなく、藤本凜人はしばらくすると帰ってしまった。
おそらく息子ができたことで、息子を育てる苦労が分かってきたのだろう。
藤本家。
藤本凜人が福山さんからの電話を受けたとき、少し驚いた。特に、芽も一緒に連れて来てほしいという特別な要求を聞いて……
彼は電話を切り、遊んでいる寺田芽に向かって尋ねた。「芽、おばあちゃんに会いに行くのはどう?」
寺田芽:?
彼女の大きな目には疑問が満ちていた。「私にまだおばあちゃんがいるの?」
言ってから、すぐに口を押さえた。
やばい!
うっかり口を滑らせちゃった。お兄ちゃんはきっとおばあちゃんがいることを知っているんだ。
寺田芽がそう考えていると、パパが身を屈めて彼女と向き合って言った。「うん、知らなくても当然だよ。だって、このおばあちゃんにはあまり会ったことがないからね。」
ほっ……そういうことか。
寺田芽はほっとして、今度は嬉しそうに答えた。「はい!」
彼女はおばあちゃんが好きだ!
曾祖母と同じように、優しいおばあさんなんだろう。いつもプレゼントをくれて、最近では彼女はほとんど藤本グループの人気者になりつつあった。
そう思うと、彼女は興奮して言った。「パパ、じゃあ服を着替えてくるね!」