静かな病院の廊下で、このフロアがVIP病室だったため、寺田真治は寺田亮がより良く療養できるようにこのフロアを貸し切りにしていた。他の人はいなかった。
寺田凛奈が断固とした口調で話し始めたところ、不満げな冷たい声が聞こえてきた。「髪の毛がすり替えられるはずがない。私の専門的な能力は疑う余地がないのだ!」
寺田凛奈が顔を上げると、前方の暗がりからゆっくりと人影が近づいてくるのが見えた。
その人が立っているときは、寺田凛奈は気づかなかった。まるで暗闇と一体化しているかのようだった。
しかし、その人が現れるや否や、寺田凛奈はすぐにその人の存在を捉えた。
男はとても痩せていて、黒い服を着て、黒いキャスケット帽をかぶっていた。顔は小さくて痩せており、おそらく日光を浴びる機会が少ないせいか、肌の色は白かった。左耳には金属のピアスをつけており、全体的に中性的な美しさを醸し出していた。
彼はいつものように俯いて、キャスケット帽を軽く撫でながら、寺田真治の側まで歩いてきた。
寺田真治が紹介した。「これは寺田洵太、お前の従兄だ」
従兄弟ということは、同じ父親ではないということだ。
寺田凛奈はうなずき、二人の顔をよく観察した。寺田洵太と寺田真治は全く似ていないと感じた。
寺田真治はより優しく、狡猾さを感じさせる狐のような目をしており、眉目に笑みを浮かべ、笑っていないときでも人に優しい印象を与えた。
寺田洵太は顔立ちが違うだけでなく、雰囲気も冷たさを帯びていた。
寺田凛奈がこの家族を興味深そうに観察していると、寺田洵太が彼女を睨みつけた。「何を見ている?もっと見るなら、お前の眼球を抉り取ってやる」
寺田凛奈:「……」
なんだか、この二番目の兄は中二病の少年みたいだな。
彼女は口角を引き攣らせたが、まだ何も言わないうちに、寺田洵太が再び口を開いた。「お前が俺の従妹だからって特別扱いするとでも思っているのか?言っておくが、俺は他の寺田家の人間とは違う。奴らは妹が欲しがっているが、俺は全然欲しくない!それに、叔父さんは俺にとって父親同然だ。お前が叔父さんを不快にさせるなら、俺は叔父さんを裏切ったりしない。お前のことなんか好きになるわけがない!」
寺田凛奈:「…………」