ムヘカルは来るのが早く、去るのも早かった。
彼は元々風のような男で、江湖の者の義理と、正直さと強さを持っていた。暗殺者のリーダーになれたことは、彼の個人的な魅力を十分に示している。
実際、寺田家と対立しなければ、尊敬される大物だったかもしれない。
今、彼が去った後、寺田真治は藤本凜人を見つめ、二人は顔を見合わせて笑った。
寺田亮は彼らを見て、突然笑った。「二人の悪ガキが人を謀り始めたな!」
寺田真治は照れ笑いをした。「三叔父さん、謀るというわけではありません。」
藤本凜人は軽く微笑み、目尻の泣きぼくろが艶やかに輝いた。その姿を見て、寺田亮は頭痛がしてきた。
男なのに、なぜこんなに傲慢な顔をしているのか?
自分の娘が子供まで産んだのも無理はない、確かに誇れるルックスだ。ああ!
彼がそう考えていると、藤本凜人が口を開いた。「堀口泉弥は海外にいます。M国はムヘカルの縄張りですから、彼女を連れ戻してこそ、法の裁きを受けさせる余地があります。」
ムヘカルは道理をわきまえない人間だ。
守りたい人がいれば、寺田真治が真実を話しても、最後まで守り通すだろう。
だから、いっそのこと計略に乗っかろう!
暗殺者連盟を敵に回すことについては……ふん、寺田真治と藤本凜人は一度も考えたことがなかった!
寺田真由美と木田柚凪を傷つけた堀口泉弥は、必ず代償を払わなければならない!!
寺田真治は藤本凜人に笑いかけた。この笑顔には全ての偏見が捨て去られていた。彼は直接口を開いた。「ありがとう。」
さっきのことだが、もし彼自身が互いに一歩譲る提案をしていたら、ムヘカルはまだ何か裏があるのではないかと疑っていただろう。
しかし、藤本凜人が提案したのなら話は別だ。ムヘカルの信頼を得やすい。
藤本凜人は軽く笑い、功績と名声を深く隠した。「どういたしまして。」
ビジネスの世界で何度も競い合ってきた二人の男性が、この瞬間、完全に和解した。
寺田亮は甥を睨みつけ、心の中で思わず叫んだ。「やられた、寺田家はまたこの男に攻略されてしまった!」
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