第762話

小泉彰隆はその言葉を聞いて、しばらく黙り込んだ。

寺田輝星は脳腫瘍の手術を受けたばかりで、まだ療養中だった。以前より痩せて、頬がこけていた。

妻の姿を見つめ、かつての彼女の輝かしい姿を思い出し、小泉彰隆はため息をついた。

寺田健亮が寺田凛奈の実の父親ではないことが明らかになって以来、寺田輝星は不安な状態が続いていた。毎日口にする言葉は「...兄さんがどうしてこんなに恥知らずなの、寺田家の全ては凛奈のものなのに!どうしてこんなことができるの!凛奈の母さんが残したお金で、自分の女と娘を養って、凛奈のことは放っておくなんて...」

「彼は凛奈に多くの借りがある。」

「彼は一生、凛奈に借りがあるのよ。」

彼女は寺田健亮に対して強い恨みを持っていたが、先日、寺田健亮の死亡のニュースが伝わってきた時、寺田輝星は呆然としていた。