第811章 藤本凜人のために景色を見る

寺田凛奈は急いで口を開いた。「姉さん、実は伝えたいことがあるんです。藤本凜人は……」

「彼のことはもう話さないでくれる？もし彼を探しに行くつもりなら、私はむしろあなたに彼のことを忘れてほしい。凛奈、命こそが最も大切なものよ。この言葉を必ず覚えておいて。」

佐竹璃与は彼女を見つめ、その眼差しには深い心配が満ちていた。「以前あなたを知ったとき、いつもあなたは理性的で冷静な人だと思っていたわ。でも実はこういう事態に直面すると、あなたも大多数の人と同じなのね。凛奈、まさかあなたがそれほど凜人を愛しているとは思わなかった。でも自ら命を絶とうとするなんて……」

寺田凛奈：「……」

彼女は口元を引きつらせ、ようやく佐竹璃与の話の合間に割り込んだ。「藤本凜人は死んでいません。」

「わかってるわ、わかってる。」

佐竹璃与はうなずいた。

寺田凛奈は固まった。「知ってるの？」

佐竹璃与の目の縁はさらに赤くなった。「うん、彼は死んでいないわ。彼はずっとあなたの心の中で生き続けるわ。」

寺田凛奈：？

佐竹璃与はため息をつき、彼女の手を握った。「だからこそあなたは彼と一緒に生きていくべきなの。凜人はまだ26歳で、この世界とお別れしたのよ。だからあなたは彼の代わりにこの世界を見なければならない。」

寺田凛奈：「……」

「彼もあなたが彼の目となって、北極のオーロラの景色を見たり、南極の氷に覆われた光景を見たり、そして三人の子どもたちが成長して、それぞれ自分の家庭を持つのを見守ってほしいと思っているはずよ……凛奈、約束して、彼のためにこれらを見てあげて？」

「……」

寺田凛奈は再び口元を引きつらせ、ようやく口を開いた。「彼はまだ死んでいません。自分の目があるので、見ることができます。」

佐竹璃与：？

彼女は一瞬固まった。「凛奈、死んでいないというのは……」

寺田凛奈はうなずいた。「あなたが考えているとおりです。彼はまだ生きていて、目があってこの世界を見ることができます。死んでいないんです！」

佐竹璃与：！！

部屋の中は一瞬静まり返った。

しばらくして、佐竹璃与はようやく理解したが、それでも尋ねた。「じゃあ彼はどこに行ったの？なぜ死んだふりをしたの？」