寺田凛奈は人混みの中に立ち、静かに寺田芽を見つめていた。
彼女は焦ることもなかった。なぜなら、この小さな子がこれほど落ち着いているということは、きっと自分なりの対処法を持っているからだ。
そうでなければ、部屋の中にいる藤本建吾と入江和夜はとっくに飛び出してきているはずだ。この二人は典型的な妹思いなのに、いつから芝居を見るかのように後ろに隠れているのだろうか?
彼女は杏色の瞳で冷たく中を見つめた。
北島おばあさんの言葉の方が明らかに信憑性があった。結局のところ、一人のお年寄りが子供を標的にする必要はないし、しかも引っ越してきたばかりで、何の争いもなかったのだから。
そこで皆は寺田芽の方を向き、諭した。「坊や、謝った方がいいよ!強情を張らないで!」
もちろん、寺田芽を信じる人もいたが、北島おばあさんは横暴な性格で、特に息子がNTTで働くようになってからは、さらに傲慢になっていた。敵に回せないので、彼らも諭した。「坊や、強情を張らないで、謝りなさい!」
同じ言葉でも、この二つの言葉を言った人々の気持ちは違っていた。
寺田芽は口をとがらせた。「あなたがくれたんですよ!」
彼女はまた葱油餅を一口かじり、噛み始めた。
北島おばあさんは他の人々を見て、深くため息をついた。「見てください?小さな子供が間違いを犯しても認めようとしない!こんな子供が、ここに住んでいるのを我慢できますか?私の提案は、警察には通報しないけど、彼らに引っ越してもらうことです!私はこんな人たちと隣人にはなりたくありません!」
寺田芽は目をパチクリさせた。「悪いおばあさん、警察を呼んでください。この餅は確かにあなたがくれたんですよ!私は盗んでないです!」
傍にいた人が彼女がまだそう言い張るのを見て、口を開いた。「坊や、もう言わない方がいいよ。家の大人はどこ?早く出てきてもらって!北島おばあさんがあげたって言うけど、証拠はあるの?証拠がなければ、これ以上言い続けたら、北島おばあさんは絶対に許してくれないよ。君は…」
親切な人が諭している最中に、寺田芽は口を開いた。「誰が証拠がないって言ったの?」
彼女は目をパチクリさせ、また葱油餅を一口かじり、もう一方の手をポケットに入れた。どうやら携帯を取り出そうとしているようだった。
寺田凛奈の杏色の瞳が少し曲がった。
小さな賢い子。