第440話：大丈夫、心配しないで

「近寄るな！さもないと彼女を殺す！」声は極めて低く、声を抑えて話しているのが分かったが、彼が話している間も、蘇千瓷はどこか非常に馴染みがあると感じていた。

この声は、きっとどこかで聞いたことがある！

しかし、彼女はもう口を開かなかった。

心の中の恐怖は、相手が知人である可能性が高いにもかかわらず、少しも減ることはなかった。

果物ナイフを突きつけられながら星の都の明かりが届く場所から連れ出され、周りは徐々に暗くなっていき、後ろには真っ暗な小道があった。

警察の一団と厲司承たちは、少なくとも六、七十メートル離れた場所から追跡していた。

突然、後ろからヘッドライトが真っ直ぐに照らし、スポーツカーのエンジン音が人目を引くように響き、全員の視線がその車に引き寄せられた。

蘇千瓷は犯人の体が少しリラックスしたのをはっきりと感じ取った。

続いて、車が彼らの後ろに来ると、蘇千瓷ははっきりとドアの開く音を聞き、意図的に抑えられた女性の声が聞こえた：「乗って！」

馴染みがある！

蘇千瓷が誰なのか考える間もなく、犯人に解放され、振り返ると、彼女を人質に取っていた犯人はすでに車に乗り込んでいた。

派手で美しいスポーツカーの車体には、非常に特徴的な落書きと塗装が施されており、まるで一連の図柄のように見えた。

こんな特徴的な車を使うのは、わざと警察の目を欺くためか？

車のナンバープレートに目をやると、すでに覆われており、何も見えなかった。

警察の一団が最速で駆けつけたが、スポーツカーのスピードにはかなわなかった。

「また逃がしてしまった！」女性警官が悔しそうに叫んだ。

厲司承は真っ先に蘇千瓷の様子を確認しに来て、両手で彼女の顔を包み込み、低い声で尋ねた：「大丈夫か？」

蘇千瓷は彼の手が微かに震えているのをはっきりと感じ取り、その手を掴んで、もう一方の手で彼の首に腕を回し、小声で言った：「大丈夫よ、怖がらないで」

厲司承はほっと息をつきながらも、すぐに笑みを漏らした。

どうして急に立場が逆転したのだろう？

身を屈めて彼女を抱き上げ、厲司承は車の方へ歩き出した。

厲靳南は車を走らせながら近づき、いつでも追跡できるよう準備していたが、厲司承が彼女を抱いて来るのを見て、ようやく安堵の息をつき、車のロックを解除した。