「会社はもっと人がいるはずなのに、この時間みんな仕事中だよね。」
「今日は土曜日だよ、急いで、妻が待ってるんだ。」
「ああそうか、何を焦ってるんだ、今バックしてるところだろう。でも病院に行った方がいいよ、君の顔を見てごらん……」
厲司承はバックミラーを見た。左頬に少なくとも三本指分の擦り傷があり、血が滲み出ていて、皮膚が剥がれていた。
うん、本当に醜い。
「わかった、病院へ行こう。」
「了解です。」
まず病院で簡単に傷の手当てをしてから、会社のロッカールームで着替えた。
着替えている時、厲司承は自分の体に多くの擦り傷があることに気づいた。どおりで至る所がヒリヒリするわけだ。
まずい、やっと妻の妊娠三ヶ月を過ぎて親密になれると思っていたのに、これじゃ服も脱げない。
彼女に見られたら、心配して仕方がないだろう。
厲司承は突然、この混乱に首を突っ込むべきではなかったと感じた。唐正浩を捕まえられなかっただけでなく、今では妻にも触れられない。ため息が出る……
しかし、この一戦を通じて、厲司承は以前からの推測をより確信するようになった。
唐正浩の背後には、麻薬密売組織がいる。
先ほど前に座っていた二人のうち、運転していた男は前回星の都の入り口で蘇千瓷を人質に取った犯人で、その女は前回その犯人を助け出した共犯者に違いない。
そうなると、唐正浩に手を出すのは、さらに難しくなりそうだ。
この麻薬密売組織は鉄壁のような存在で、警察が何度も包囲殲滅作戦を行っても傷一つ付けられなかった。ビジネスマンの自分一人で、彼らに手を出せるわけがない。
ただし……自分も彼らの一員になれば?
厲司承の着替えの動作はどんどん遅くなり、頭の中でアイデアが次々と浮かんでいた。
どうやら、それは可能かもしれない。
しかし……おじいさんが知ったら、きっと怒りで入院することになるだろう。
でも、このまま手をこまねいているわけにもいかない。
携帯の電源を入れると、すぐに電波を受信し、羅戰からの電話が入った。
「そのナンバープレートは存在しない。偽物だ。君が見たナンバーは細工されていたに違いない。」羅戰の声は確信に満ちていた。
羅戰の能力は非常に信頼できる。彼が偽物だと言うなら、間違いなく本物ではない。