第601話：夜中なのに、まさか喧嘩をしているなんて

すると、蘇千瓷は何かを思い出したかのように、彼をじっと見つめ、潤んだ瞳で震える声で言った。「私を疑っているの、義弟さん！」

「あねさん、落ち着いてください」厲靳南は彼女の詰問に対して、少しも動揺を見せなかった。

先ほど蘇千瓷が事の経緯を説明し終えた時、彼の心の中にはある推測が浮かんでいた。

しかし、その推測はあくまでも推測に過ぎず、厲靳南は確認する必要があった。

今、蘇千瓷のこのような態度に直面しても、厲靳南は平然とした表情で、彼女を見つめながら低い声で言った。「兄さんを信じています。あねさん、今一番手っ取り早い方法は、唐清の正体を暴くことです」

蘇千瓷は座り込み、頭を抱えて、受け入れがたい様子だった。

彼がどこにいるか分かっているのに、彼が苦しんでいることが分かっているのに。

でも、なぜ彼を連れ戻すことができないの？なぜ彼らには何の手立てもないの……

「唐夢穎が唐清を装ってこんなに長い間、彼女の本当の身分を世間に明かすのがどうして簡単にできるの？」

厲靳南は彼女を見つめ、その深い瞳はさらに底知れず、かすかに厲司承の面影が見えた。彼は非常に冷静に言った。「同じ理屈で、兄さんがあそこに閉じ込められて長い時間が経っています。一気に突入して強引に救出するのがどうして簡単にできるでしょうか？警察に通報したとしても、兄さんが刑務所に入ることを受け入れられるかどうかは別として、警察が玄関に着く頃には、彼らは既に人を移動させているかもしれません」

「じゃあどうすればいいの、どうすればいいの！」蘇千瓷はこの時完全に理性を失い、この言葉を聞いて、厲靳南に向かって叫んだ。「このまま見過ごすというの？私は何年も彼を探してきたのに、あなたは私に諦めろと言うの！」

奥の部屋からすぐにドアの開く音が聞こえ、電気がつけられた。

蘇千瓷は涙を拭い、ソファーに寄りかかったまま、動かなかった。

秦書畫と厲堯が寝間着姿で出てきて、彼らのこのような様子を見て、夫婦は顔を見合わせた。

秦書畫の表情には心配の色が浮かび、一方、厲堯の表情は水のように静かで、こちらを見つめていた。

厲靳南は彼らが後ろに来たことに気付いていないかのように、蘇千瓷を見つめ、極めて冷静に言った。「この件は私に任せてください。あねさん、できるだけ早く答えを出します」