第637話：虎穴に入らずんば虎子を得ず

蘇千瓷は、厲司承だけが相応しい存在だと運命付けられていた。

厲靳南は彼女を見つめ、蘇千瓷の目の奥に浮かぶ感動を明確に見て取り、低く穏やかな声で言った。「彼のことになると、いつも冷静さを失ってしまうね。」

しかし幸いなことに、彼女の賢さのおかげで、すぐに理解できた。

蘇千瓷は少し混乱し、目を上げて厲靳南を見た。

厲靳南は実際、厲司承によく似ていた。

特にその目は、同じように美しい目の形で、同じように漆黒の瞳を持っていた。

しかし厲司承と比べると、厲靳南には冷淡さが少なく、傲慢さも少なかった。

四年の時間が、軍隊から出てきた時の鋭さと傲慢さを、内に秘めた深みへと磨き上げていた。

29歳の厲靳南には、成熟した男性特有の魅力があった。

厲司承の冷淡で傲慢な態度とは異なり、厲靳南はいつも穏やかで、星や月のように、かすかに漂い、目の前にいながらも、どうしても見通せず、掴めない存在だった。