第289章 顧靖澤という頑固者にも追い求める人がいるなんて

顧靖澤は陸初夏の言葉に気にも留めなかった。

　　車に乗り込んで出発した。

　　陸初夏の先ほどの態度を思い返すと、彼はいつも人に熱心に見つめられてきたが、告白されることは実際にはほとんどなかった。

　　おそらく、多くの人が彼の地位を恐れていたか、あるいは陸初夏のように自分の品位を保とうとしていたからだろう。

　　おそらく、彼に近づいた時に断る隙を与えなかった人は一人だけだった。

　　その人こそ林澈だった。

　　もし当時彼女が厚かましくも薬を盛らなかったら、彼女も彼に一歩も近づけなかっただろう。おそらく世界中で林澈ほど厚かましい人はいないだろう。品位なんて彼女にとっては全く存在しないもので、そんなことを少しも気にしたことはなかった。顧家に来ても、ひたすら彼に押し付けるように、ほとんど身を寄せてきて、人を全く防ぐ余地がなかった。

　　林澈のことを思い出し、顧靖澤は仕方なく頭を振った。

　　――

　　林澈は顧靖予と一緒に食事をしていた。

　　顧靖予が選んだ場所は、さすがに静かで隠れた場所だった。周りにはファンの騒がしい声もなく、スタッフが気を遣って付き添うこともなかった。林澈はリラックスして食事をしていた。顧靖予は傍らで見ながら言った。「ゆっくり食べなよ。誰も取り合いしないんだから」

　　「顧の家族はみんなそんなにうるさいの？私が早く食べるのは私の習慣よ。あなたたちが食事をするのがそんなにのろいのが問題なのよ、遅すぎる」林澈は思い出した。顧靖澤も食事をする時は、そんなにゆっくりと、優雅な動作で、礼儀正しかった。

　　顧靖予は不思議そうに彼女を見た。「何の顧の家族って...お前、俺以外に顧家の誰に会ったんだよ」

　　「あ...いや、大統領閣下よ。誰が知らないの？國宴で彼が食事をするのを見たわ。死ぬほど遅かった」

　　顧靖予は言った。「はは、俺の前で兄貴の悪口を言うとは」

　　「どうしたの？彼は大統領かもしれないけど、私はまだ国民よ。大統領は国民のために奉仕するものでしょう、違う？」

　　顧靖予はますます、この娘の話し方が面白いと感じた。

　　彼はさらに彼女の頬をつねった。

　　「おい、おい、おい、顧靖予、またそんなことするなら、覚悟しなさいよ」