林澈は後ろに退いて、足元がふらつき、転びそうになった。
皆が驚きの声を上げる中、ある人が突然、林澈を引き留めた。
「林澈、これがお前の全力なのか」
林澈は一瞬固まった。
顔を上げると、目の前にいる司徒瓊を見て、まるで夢を見ているかのようだった。
「あなた……」
司徒瓊は冷たい表情で、相変わらず嫌な顔つきのまま、彼女を押し上げた。
彼は林澈を見つめながら、「きれいごとを言って、自分に勝つと。負けるとわかっていても諦めないと。今のがお前の諦めないということか?」
林澈は剣を握る手に力を込めた。「ただ……風邪を引いて、体調が悪くて」
「フェンシングにとって大切なのは、お前の体ではなく、剣だ」司徒は彼女を見つめた。「たとえお前の体が不自由になって、動けなくなっても、剣が動けば相手を突くことができる。それすらわからないのなら、私がフェンシングを教えたなどと言うな!」
林澈は一瞬呆然とし、恥ずかしさのあまり床のマットの下に隠れたい気持ちになった。
そうだ、そうだ。体が弱っているから、彼女に先制されたから、すべてを忘れてしまっていた。
でも、試合はまだ終わっていない。まだチャンスはある。
林澈はすぐに立ち上がり、司徒瓊を見つめて叫んだ。「試合はまだ終わっていません。なぜ人を罵るんですか。私はあなたに罵られる機会なんて与えません」
司徒瓊は彼女の目に輝きが戻り、以前のエネルギッシュな林澈と重なるのを見て、そこに立ったまま、わずかに微笑んで、程よい声量で言った。「当然だ。私、司徒瓊の弟子が、そう簡単に、人に負けるはずがない!」
皆は一斉に驚きの声を上げた。
下にいるのは誰なのか?
それは司徒瓊、人前に姿を見せることのない司徒瓊だった。
司徒家の二少である。
船舶王と呼ばれる司徒家のC国での影響力は、陸家に匹敵するものだった。ただ、あまりにも控えめな態度のため、人々の話題に上ることが少なかっただけだ。
今、司徒瓊は林澈を自分の弟子だと言った。
彼の過去のフェンシングでの伝説的な活躍を、皆もちろん知っていた。その後、家族の事業のために、フェンシングの舞台から姿を消したが、それでも彼は依然として伝説的な存在だった。
そして林澈は、司徒瓊に弟子だと認められた。おそらく、彼が認めた唯一の弟子なのだろう。