第89章 綿綿、ありがとう

「うーん……」

  喬綿綿は手で顔を撫でて、少し恥ずかしそうにした。

  昨夜はよく眠れたのに、今日の昼はなぜこんなに眠くなってしまったのかわからない。

  「じゃあ、よく眠れた?」喬綿綿は振り向いて彼を見て、彼の精神状態がかなり良くなったように見え、そんなに疲れていないように見えた。

  「ああ、とてもよく」

  墨夜司は楽しげに口角を上げた。「綿綿、ありがとう」

  たとえ短い1時間だけでも、彼の体と精神の回復には大きな効果があった。

  その1時間の睡眠の質は、夜の3、4時間よりもずっと良かった。

  途中で目覚めることもなく、悪夢も見なかった。

  一度寝て目覚めると、まるで生まれ変わったようだった。

  「私に感謝?」喬綿綿は困惑して彼を見た。「何のお礼?」

  前方で赤信号が点灯した。

  墨夜司は車を止め、振り向いて彼女をじっと見つめた。「一緒に寝てくれてありがとう。この1時間、とても気持ちよく眠れた」

  「ゴホッゴホッ」喬綿綿は激しく咳き込んだ。

  彼の言葉は、あまりにも誤解を招くものではないか!

  彼女は激しく咳き込み、目に涙を浮かべながら、息を整えて非難するような目で彼を見た。「墨夜司、もう少しまともに話せないの?」

  何が「一緒に寝てくれてありがとう」よ!

  それに「とても気持ちよく眠れた」だって!

  誰が聞いても、変な想像をしてしまうでしょ。

  「ん?何がまともじゃないんだ?」墨夜司は少女の柔らかな頬が赤く染まり、黒くて生き生きとした瞳に涙が光り、非難の眼差しで彼を睨みつけている様子を見た。その困惑して怒っているような表情は、とても愛らしかった。

  本当に可愛いとしか言いようがない。

  おそらく彼女自身も気づいていないだろうが、怒って人を睨みつける時でさえ、少しも怖くなく、むしろとても柔らかく攻めやすそうに見える。

  まるで甘えん坊の子犬や子猫のように見える。怒れば怒るほど、からかいたくなる。

  「わかってるくせに!」喬綿綿は恥ずかしさと怒りで低く叫んだ。