「お嬢様、このお花をお受け取りください」
ウェイターは言いながら、喬綿綿を見上げて数回目を合わせ、この若くて美しい女の子がもうすぐ幸運を掴むのだろうと思った。
声だけでも、言さんが彼女をこれほど気に入るほどだった。
もしこの後、言さんが本人を見たら、きっと手に入れたがるだろう。
こんなに美しいのだから、どの男も見たら好きにならないはずがない。
周知の通り、言さんは気前がよく、気に入った女性には更に寛大になる。
ちょっとした額でも、普通の人が一生かかっても稼げないほどの金額だ。
喬綿綿は一瞬戸惑った:「誰かがあなたに私へ花を届けるよう頼んだの?」
「はい」ウェイターは少し考えて、親切に注意を促した。「そのお客様は当店の貴賓で、身分は言葉では言い表せないほどです。向かいの個室におられて、お嬢様と直接お話しする機会を望んでおられます」
「お嬢様がよろしければ、すぐにご案内いたしますが」
喬綿綿:「……」
これは所謂ナンパというものなのか?
「貴賓って、どなたなの?」薑洛離は真っ赤なバラの花束を見ながら、閃いたように飛び上がった。「ちゃん、もしかして男神じゃない?こんな方法で仲直りしようとしてるのかも?」
喬綿綿は一瞬固まった。
墨夜司?
まさか、どうして彼女がここにいることを知っているの?
彼に言ってないのに?
彼女は疑わしげにウェイターを見た:「そのお客様の姓名をご存知ですか?」
ウェイターは微笑んで、頷きながら言った:「言家の若旦那、言少卿様です。お嬢様もご存知かと」
ウェイターは、この名前を言った後、目の前の女の子がきっと驚き、そして喜び、興奮するだろうと思っていた。
結局、言少卿という名前は権力の象徴なのだから。
この誘惑に抵抗できる女の子などいないはずだ。
しかし結果は彼の想像とはかなり違っていた。
目の前の女の子は「言少卿」という名前を聞いた時、確かに数秒驚いたが、その後、顔に浮かんだのは喜びの色ではなかった。
それは……とても不気味な笑みだった。
「言少卿?!本当に?」
「は、はい」
「ふーん、いいわ。花は受け取るわ。彼に一言伝えてもらえる?」
*
数分後。
ウェイターは奇妙な表情で個室から出てきた。
彼は888号室に向かい、そっとドアをノックした。
すぐに中から返事があった:「入れ」