第555章 裴何娜は大胆な女

夏亦初はしばらく呆然としていた。この薬で、彼女の傷跡が治るというのか?

夏亦初は疑わしく思った。なぜなら、そんな奇跡の薬が世の中にあるはずがないと思ったからだ。結局、彼女の傷跡は小さくないし、治すには整形しかないと思っていた。

しかし、顾宁には彼女を騙す理由がないとも考えた。彼女と顾宁の間には利害関係もなく、まして何の因縁もなかったからだ。

彼女は相手にとって唯一価値のある存在として、大切にされるべきであって、害されるべきではなかった。

しかし今となっては、たとえ相手が本当に騙していたとしても、賭けてみる価値はある。虎穴に入らずんば虎子を得ずというではないか?

試してみれば希望はある。試さなければ、希望は全くないのだ。

そこで、夏亦初は顾宁の薬を受け取り、心から「ありがとう」と感謝した。

「いいえ、これはお互いの利益のためです」と顾宁は言った。「それと、その前に、まず病院で怪我の診断書を取って、大切に保管しておいてください。必要になりますから。時間を無駄にせず、喬冠翔に気付かれて不必要なトラブルを避けるため、診断書は京城に着いてからにしましょう。」

「はい」と夏亦初は答えた。

話がまとまると、顾宁は去り、夏亦初もすぐに荷物をまとめ始め、同時に弟に電話をかけた。

夏亦冬は夏亦初の弟で、今年17歳、海市第五高校の2年生で、成績は最上位ではないが、中の上級くらいだった。

夏亦初は美人で、夏亦冬も負けず劣らずのルックスを持っていた。さらに、夏亦冬は音楽的才能も高く、特に作詞作曲の面で優れていた。

夏亦初が音楽の夢を失ったため、夏亦冬は姉の夢を実現させようと、一生懸命音楽の道を進もうとしていた。しかし、この事実は夏亦初に知られないようにしていた。姉が止めたり心配したりするのを恐れていたからだ。

この道は決して楽ではなく、競争も多く、陰謀や策略も多いからだ。

今日、夏亦冬は有名な音楽専門家の講義を聴きに音楽学院に行くため、学校を休んでいた。

そのため、夏亦初から電話を受けて、どこにいるのかと聞かれた時、夏亦冬は嘘をついて「学校にいます!」と答えた。