200 歓喜に沸き立つ

「社長、おっしゃる通りに準備しました。」

　　VIP席で、スーツをきちんと着こなした男が慕雅哲の傍らに恭しく立ち、美しいボイスレコーダーを彼の手に渡した。

　　彼は俊眉を上げ、男を横目で見て、しばらく考え込んだ。「どの部屋だ？」

　　「208号室です。」

　　「ふん。」慕雅哲はボイスレコーダーをスーツのポケットに入れ、薄い唇が冷たい弧を描いた。「この小魚は既に釣れた。大魚はまだ動きがないな。」

　　彼は赤ワインのグラスを手に取り、グラスの中の赤い液体を軽く揺らし、声は慵懶で深みがあった。「この大魚は、何年も待った。そろそろ我慢できずに水面に浮かび上がるだろう？」

　　男はうなずいて言った。「現在、財団内部は人心が測りがたく、取締役会はあなたについて……」

　　「慕社長！」

　　澄んだ声が男の言葉を遮った。

　　慕雅哲は不機嫌そうに眉を上げたが、唐羽が恥ずかしそうにグラスを持って彼の前に歩み寄るのを見た。酒の勢いを借りて勇気を出し、彼に近づこうとしていた。

　　「慕社長、なぜお一人でここに座っているんですか？慕奥様はあなたの傍にいないんですか？」

　　唐羽はそう言いながら、自分では魅力的だと思っている笑顔を浮かべ、妖艶な姿で彼の隣に座った。

　　ドレスの肩紐が、知らぬ間に肩からずり落ち、雪白の魅惑的な肩と首筋を露わにした。

　　彼女は少し酒を飲んでいたので、自然と大胆になっていた。

　　唐羽は先ほど慕雅哲が雲詩詩をダンスに誘うのを見て、彼もそれほど高嶺の花ではないのだと気づいた！

　　雲詩詩が彼のダンスパートナーになれるなら、当然他の女性も彼のベッドパートナーになれるはずだ。

　　もし彼のベッドに上がることができれば、これからは出世街道まっしぐらじゃないか？

　　彼女は自分に十分な自信があった。若くて美しく、何より体型がいい。多くの大物社長たちが彼女を好んでいたが、彼女は彼らの地位を軽く見ていた。

　　唐羽の野心はそれほど大きくなかった。言い換えれば、陸景甜のように名家に嫁ぎたいとは思っていなかった。ただ慕雅哲の権力を借りて、早く出世したいだけだった。

　　彼女はデビューしてからずっと楊芈に押さえられ、中途半端な人気しか得られずにいた。