第274章 墨社長が負けたことなどあるのか？

「ほら、来たじゃないか」権お父さんは微笑みながら墨霆と唐寧の入場を見て、隣の権燁に立ち上がるよう促した。

墨次郎さまも墨霆を見たが、彼の視線を墨霆に向けることはなかった。何十年も見てきたので、新鮮味はない。そのため、彼は墨霆が連れてきた唐寧に視線を向けた。

最初の印象として、この女の子はやや冷たい感じがするが、清高ではない。見たところ静かで、視線も強烈ではなく、見ていて心地よい。

元々、家族全員がこの甥っ子は一生独身だと思っていたのに、まさか目覚める日が来るとは。

しかし、芸能界のような環境から出てきた子が、清廉潔白なのだろうか？

「早く座りなさい。渋滞していたのか？」墨次郎さまはすぐに墨霆に言った。

本来は、墨霆がどんな理由で遅刻しても、統一した答えを用意していた。それは渋滞だ。しかし...

墨霆はまず唐寧のために椅子を引き、紳士的に彼女を座らせた。その後、自分の椅子を引きながら答えた。「渋滞はありませんでした」

墨次郎さまの表情が変わり、向かい側の権お父さんと権燁の表情も同様に良くなかった。

唐寧は墨次郎さまを一瞥し、次に墨霆を見た。最後に墨霆のニヤニヤした表情を見て、やっと理解した。そこで口を開いた。「本当に申し訳ありません、お二人のお年寄り。私が途中で渋滞に巻き込まれ、墨霆が私を迎えに来たために時間がかかってしまいました。お待たせして、本当に申し訳ありません」

墨次郎さまはこれを聞いて、表情が和らぎ、唐寧を賞賛の目で見た。

一方、墨霆はテーブルの下で唐寧の手を取り、数回撫でてから、自分の暖かい掌で包んだ。

唐寧は墨霆がこうする意味を理解した。実際、彼女に表現の機会を与え、年長者の前で良い印象を得るためだった。

「これは些細なことだ」権お父さんは手を振り、そして唐寧を指差して墨次郎さまに言った。「私はこの子を知っている。最近、セイキョウでは彼女についてのニュースがたくさんあるんだ」

権お父さんのこの言葉は、唐寧が有名で人気があることを褒めているように聞こえるが、実際には、この女の子が全く単純ではないと言っているのだ。

墨次郎さまはこれを聞いて、頭を傾けて墨霆に尋ねた。「それらのことは、全部知っているのか？」

「もちろんです」