第545章 私は彼の初恋

「靖宣、あなたって本当に優しいわね」

「さあ、気を付けて」唐靖宣は優しく微笑んで、紳士的に許青顏が座るのを確認してから、車の前を回って運転席に向かった。

葉嵐はその光景を目にして、胸の中で激しい嫉妬の炎が燃え上がった。確かに彼女は財閥の富豪と結婚し、これまで許青顏を見下してきたが、許とうさんは年を取り、多くの面で力不足になっていて、普通の男性のように彼女に温もりやロマンを与えることはできなかった。

だから、唐靖宣が許青顏にあんなに優しく接しているのを見て、許青顏のあの綺麗な顔を引き裂いてやりたいと思った……

……

「はは、葉嵐のあんな表情を見るのは初めてよ。最高！」スポーツカーの中で、許青顏は葉嵐の表情を思い出すたびに興奮して、気分が爽快になった。

「君は...辛くないのか？」唐靖宣は二重の意味を込めて尋ねた。

「私が何で辛いの？」許青顏は不思議そうに首を傾げて唐靖宣を見つめ返した。

唐靖宣は実は、助手席の収納に薬を用意してあることを言おうとしていた。旧友への気遣いのつもりだったが、今の許青顏は自分の体の痛みなど気にも留めていないようだった。昨夜、自分が目撃したことを言うべきだろうか？

「なんでもない……今日の君は綺麗だよ」

唐靖宣のこの言葉は心からのものだった。そもそも許青顏は霊気があふれる人で、あの輝く瞳は彼女を面白い人に見せていた。彼女は媚びることもなく、隠すこともない。しかし、その率直さは人を不快にさせることはなく、それは本当に貴重な特質だった。

「私がいつ綺麗じゃなかったっていうの？」許青顏は自信に満ちた笑みを浮かべた。「そうそう、今日はどこに行くの？」

「友人の婚約パーティーだ」

「まさか...以前のマネージャーさん？あなたたちのことは少し聞いたことがあるわ」

「そうだ。でも、僕たちの間には何もない」唐靖宣は説明した。

「嘘でしょ。本当に何もないなら、女性の同伴者を必要とする？本当に何もないなら、そんな迷いの表情を見せる？私は率直かもしれないけど、バカじゃないわよ」許青顏は笑って言った。「で、彼女があなたを振ったの？それともあなたが彼女を？」

「僕たちは始まりさえなかった...彼女の心には常に別の人がいたんだ」