第608話 悪役

樺文鳳はその場に立ち尽くし、もはや墨霆と対立することはなかった。

なぜなら、この時点で何を言っても、墨霆と唐寧の彼女に対する憎しみを深めるだけだと分かっていたからだ。

そのため、墨霆と深い視線を交わした後、樺文鳳は負けを認め、怒りを抑えながら直接自室へと戻っていった。

「お母さんのことで、本当に多くの疑問があるの」唐寧は少し体を傾け、墨霆に尋ねた。「理屈から言えば、お母さんは北家の人なのに、どうして北という姓ではないの？それに、どうしてこんなに俳優を嫌うの？」

「もし彼女が俳優を嫌っているなら、北辰東や、おじいちゃん、そして海瑞全体を、どうやって許容しているの？」

唐寧の質問に対し、墨霆は頭を下げ、彼女の手の甲を優しく撫でながら言った。「これらの問題は、以前から君に話そうと思っていたんだ。でも、いくつかのことは私自身もまだ理解できていない。時間をくれないか」

唐寧は墨霆の言葉の意味が完全には理解できなかったが、夫婦として長い付き合いの中で墨霆のことをよく知っていたので、頷いた。「あなたを信じています」

墨霆は唐寧の肩を抱き優しく撫でながら、樺文鳳が去った方向を見つめ、測り知れない眼差しを向けていた。

「それに、たとえ彼女があのことをしなくても、私の携帯のメッセージを消さなくても、私はオーディションに行くとは限らなかったわ」

「そしてもっと不思議なのは、どうやって私の携帯のパスワードを知ったのかしら？」

「何か食べたい？作ってあげるよ」墨霆は適切に話題を変え、唐寧の肩を支えながら座らせた。「この件は私に任せて。明日、陸澈に来てもらうから、君は何も心配しなくていい。これからは...誰も君を侮辱することはできない」

「それと、ようやく一度、君が唐靖宣を可愛がってきたことが無駄じゃなかったと感じた」

……

フランスの監督のシーズンドラマについては、唐寧と墨霆が脚本を読んだ後、人気のために同じような役を演じる必要はないと意見が一致した。結局、『消えた家族』でも彼女は控えめな用心棒を演じており、これは唐寧にとって挑戦的ではなく、当然魅力的でもなかった。

さらに、お腹の中のベイビーがもうすぐ7ヶ月になるため、唐寧はリスクを冒す必要はないと感じていた。