第629章 唐寧の冷酷さは、敵にのみ向けられる

「はい、墨奥様」

墨霆はすでに海瑞に行っていたので、家には唐寧一人しかいなかった。もしあの女性を家に連れて帰るとしたら、彼女が何か企んでいた場合、妊婦の自分では対処できないだろう。そのため唐寧は、面会場所を庭園に設定した。

この時、唐寧は本来助ける必要はなかったが、彼女は打算的な人間ではなかった。

普通の人が助けを必要としているなら、断ることはないだろう。まして、安子皓との関係もあるのだから。

唐寧の冷酷さは、敵に対してのみ向けられ、罪のない人々に刃を向けることはなかった。

それも、婦人が唐寧を好む理由の一つだった。

すぐに、婦人は別荘の中心にある庭園エリアに到着した。唐寧もコートを羽織り、大きなお腹を抱えて庭園にやってきた。二人が会うと、唐寧は疑問に思いながら婦人を見つめた。もちろん、この距離では問題に気付かないはずがなかった。

「これは...火傷？」

「ええ、もう何年も前のことです」婦人は無意識にマスクをより強く押さえた。

唐寧は微笑んで、それ以上は追及しなかった。「あなたは子皓が契約した若手芸能人のお母さんですよね？あの夜、一度お会いしましたが、なぜ私を訪ねてこられたのですか？」

「小星は安さんの下でスタントマンとして働いていて、普段は訓練をしているので家にいません。私は...小星から最近のあなたと安さんの噂を聞いて、心配で...」

「娘さんの将来に影響が出るのを心配されているのですね？」唐寧は彼女の目的を見抜いたかのように、再び優しく微笑んだ。「実は心配する必要はないんです。この件は娘さんには影響しません」

「あなたたちが潔白だということは分かっています。私にはそれを証明する方法があります...」

婦人のこの言葉を聞いて、唐寧はさらに明るく笑った。「おば様、あなたは芸能界の外の方なので、こういった是非に巻き込まれる必要はありません。まして、この件はお嬢さんとは何の関係もないのですから、そこまでする必要はありませんよ」

「私は安さんとあなたが友人だということを知っています。そして私一人の女が安さんに付きまとうのは、彼と小星に良くない影響を与えてしまうので、あなたを訪ねるしかなかったのです」

そう言われれば、それも理にかなっているように思えた。

「他意はありません。ただ力になりたいだけなんです...」