第288章 坊ちゃんを連れ出す

まだアカさんから借りた車があって良かった。寧夕は急いで服を着替え、慌ただしく旧邸に向かった。

　　彼女は陸景禮の指示通り、旧邸の裏門まで乗って行った。遠くから陸景禮がすでにそこで待っているのが見え、焦りながら行ったり来たりしていた。

　　「小夕夕ちゃん、やっと来たね！」

　　「坊ちゃんは？」

　　「部屋にいるよ！ついてきて！」

　　「私がこうして入っても大丈夫？見つからない？」

　　「大丈夫だよ、父さんは今日A市に行ってて、明朝にならないと帰ってこないし、使用人たちも全部なんとかして外に出したんだ。実はね、母さんはもう反対してないんだ。坊ちゃんが幸せならそれでいいって。ただ父さんがね、頑固すぎて、どう説得しても聞く耳持たなくて……」陸景禮は案内しながらぶつぶつと不満を漏らしていた。

　　中庭で、寧夕は歩きながら突然足を止め、顔を上げて上の方を見た。

　　「小夕夕ちゃん、行こうよ！何見てるの？」陸景禮は不思議そうだった。

　　「別に……ただ……誰かに見られている気がして……たぶん最近ちょっと神経質になってるだけ……」寧夕は頭をかきながら、前に進み続けた。

　　陸景禮は冷や汗をかきながら、無意識に楼閣の方を見上げた。心の中で思った。小夕夕ちゃん、これは神経質じゃなくて、鋭すぎるんだよ！

　　兄さんが楼閣で避けてるんだから。

　　陸景禮は寧夕を坊ちゃんの部屋に案内した。「じゃじゃーん！！！坊ちゃん、誰が来たか見てみて！」

　　坊ちゃんはベッドに座ってぼーっとしていて、陸景禮の声を聞いても全く反応しなかった。

　　「えっと……」陸景禮は恥ずかしそうに鼻をこすりながら寧夕に道を譲った。「君の番だよ！」

　　おそらく故郷に近づいた時の感傷のような気持ちだったのだろう。

　　来る時は一刻も早くと思っていたのに、実際に坊ちゃんの前に立つと、寧夕は何をすべきか何を言うべきか分からなくなった。

　　頭の中には、あの一言が繰り返し響いていた。小夕おばさん、坊ちゃんはいい子にしてたのに、どうして坊ちゃんを捨てたの……

　　彼女は坊ちゃんの自分に対する感情を軽く見すぎていた。残酷にも、ただの子供だから、時間が経てば自然に忘れるだろうと思っていた。

　　しかし、それが彼の心にどれほどの傷を与えるか分かっていなかった。