第574章 恋敵は天下に満ちる

フロントを通り過ぎる時、寧夕は恨めしそうな顔で、不満げにぶつぶつと呟いた。「本当に嫌だわ……」

「どうしたの？」陸景禮は何気なく尋ねた。

寧夕は心を痛めるような表情で言った。「このマンションのフロントには、以前すごく可愛い女の子がいたのよ。ここに来た初日に口紅を一箱プレゼントしたりして、その後仲良くなって、よくゴシップ話なんかもしてたの。それなのに、どこの頭のおかしい上司か知らないけど、フロントを野暮ったいおじさんに変えちゃったのよ！ああ、腹立たしい！私の可愛い子を返して！」

「えっと……」陸景禮は最初に、まるで悪いことなど何もしていないかのように、極めて落ち着いた表情をしている実のお兄ちゃんの方を見やった。

ふん、誰がやったのか、そんなの聞くまでもない……

お兄ちゃんのライバルって……本当に天下中にいるんだな……

毎日ライバルの対処だけで忙しいんだろうな……

階段を上がってエレベーターを出ると、寧夕が自分の部屋の方向に歩き始めた。曲がり角まで来たところで、突然足を止め、急ブレーキをかけ、坊ちゃんを抱きながら一歩後ろに下がった。

「小夕夕ちゃん、どうしたの？まるで幽霊でも見たような顔して……」後ろにいた陸景禮は不思議そうに言った。

一方、陸霆驍は既に寧夕の部屋の前に人がいるのを目の端で捉えており、眉をわずかに寄せた。

寧夕は頭が痛くなったように溜息をついた。「蘇衍よ。」

「え？蘇衍？君の初恋の人？どうしたの？」

「私の部屋の前にいるのよ！」

陸景禮はそれを聞くと、目を見開いた。「なんだって！こんな夜中に君の家の前で何をしようってんだ？小夕夕ちゃん、俺が殴ってやろうか！」

寧夕は陸景禮を横目で見て、陸霆驍の方を向いて言った。「ちょっと坊ちゃんを抱いていてくれる？すぐに片付けてくるから。」

陸霆驍は頷いた。「ああ。」

陸景禮は、実のお兄ちゃんの優しく穏やかな表情を見て、口角を引きつらせた。奥さんの前では本当に白ちゃん面かましてるけど、実際は心の中で血の雨が降ってるんだろうな……

蘇衍は指の間にタバコを挟んで、寧夕の部屋の前にもたれかかっていた。何かを考え込んでいるような表情で、何を考えているのかは分からなかった。

寧夕が目の前まで来てようやく気付き、急に顔を上げた。「小夕ちゃん、帰ってきたんだね！」