第679章 向淮の身分

薛夕は黙って向淮をしばらく見つめ、尋ねた。「これも私が記憶喪失の時にあなたと約束したことなの？」

向淮は一瞬戸惑い、すぐに答えた。「これは...もちろん違うよ」

小さな子は既に風船の意味を知っているのに、どうして同意するだろうか？向淮は焦っても仕方がないことを知っていた。小さな子に対して、彼は焦らず、ゆっくりと進めることにした。

手を上げようとしていた薛夕は、この言葉を聞いて、ゆっくりと手を下ろした。もしこいつが「そうだ」と言ったら、間違いなく殴っていただろう。

彼女がこんなことに同意するはずがない。

それに、前の二つのことさえ、向淮との約束を覚えていない。結局のところ、怪我をする前、気を失う前に、彼女がこいつとデートすることに同意し、一日を無駄にするなんてありえないことだ。

ただ、自分がガールフレンドとして不適格だと思い、ちょうど休養が必要で本も読めないので、流れで同意しただけだ。

二人は話しながら、薛家に到着した。

今日は週末で、薛夕は家に帰って泊まる予定だった。帰らなければ、葉儷が心配するだろう。

マンションに着いて、薛夕が車から降りて歩き出そうとした時、向淮が呼び止めた。「ねぇ」

薛夕は足を止め、振り返った。

向淮は笑って言った。「今日は勉強は考えないでね」

薛夕は「...ああ」と答えた。

向淮はさらに付け加えた。「僕のことを考えてね」

「............」

薛夕は真剣に彼を見つめた。

街灯の下で、男の深い輪郭はより一層引き締まって見え、その瞳は深い愛情に満ちて輝いていた。満天の星さえも、その輝きの前では色あせて見えた。

この人の目は本当に輝いている。

薛夕はうなずき、建物の中に入った。向淮はそれを見届けてから、車を発進させた。

しかし向淮が去った後、薛夕は建物から再び出てきて、向淮の黒い車の後ろ姿を静かに見つめていた。大きな瞳にはより一層の霧がかかり、心の中はさらに混乱していた。

向淮は超能力者の存在を知っている。では、彼も超能力者なのだろうか？

もし超能力者なら、なぜ特殊部門で働いていないのか？もし超能力者でないなら、なぜ景飛と鄭直は彼にそれほど丁寧なのか？

薛夕には理解できず、思い切って携帯を取り出し、全能スーパースター先生にLINEを送った。【先生、向淮の身分について知っていますか？】