葉儷と薛晟は向淮の方を見つめていた。
先ほどは向さんが向淮に対して失礼な口調で話していたので、薛晟は庇おうとしただけだったが、今この瞬間、その言葉の中に違和感を覚えた。
なぜその叱責の口調に、愛情が混ざっているのだろうか?
向淮と向さんは...知り合いなのか?
同じ「向」姓...もしかして、向淮は向さんの遠い親戚の甥とかなのか?
それなら納得がいく!
結局のところ、向淮があんなに若くして財神グループの創設者になれたのは、誰かが後ろ盾になっていたとしか考えられない!
葉儷も薛晟と同じようなことを考えていたが、この時まだ頭が整理できていなかった。小向くんが以前から林婧と知り合いだったのなら、なぜ最初に会った時、林婧と小向くんはお互いを知らないふりをしたのだろう?
それに、林婧は自分の息子を紹介すると言っていたのに、その息子はどこにいるの?
薛夕だけが少し違うことを考えていた。
彼女は眉をひそめ、方怡を見つめた。
視線を方怡から向淮へと移すと、なぜか突然、以前方怡が向淮にLINEを送っていたことを思い出した。
彼女は向淮のことを何て呼んでいたっけ?
淮にいさん?
本来なら、向淮は方怡なんて相手にしないはずだと思っていたのに、今方怡が向淮の家にいるなんて...
薛夕の眼差しが冷たくなり、無感情な視線を向淮に向けた。
この時の向淮は、向さんの言葉を聞いて、鼻をこすりながら少し気まずそうにしていた。
いつも落ち着き払っているその男の細長い瞳に、初めて戸惑いの色が浮かんだ。
はぁ!
本来なら母親に義理の母を説得してもらい、彼女の方は自分が後でこっそり機嫌を取ればよかったのに。
正直に言えば、わざと二人に隠していたわけではない。
これは全て林婧が突然思いついて引き起こした騒動だが、向さんが妻を守る人だということは分かっていた。
向さんは渋滞で遅れるはずだと計算していたので、向さんが到着する頃には林婧が全て説明を終えているはずだった。でも予想外にも向さんは青信号を引いて、林婧が話す前に帰ってきてしまった。
これで彼は仕方なく、母親の尻拭いをしなければならなくなった!
彼は咳払いをして顔を上げ、何か言おうとしたが、突然彼女の冷たい視線に気付いた。
薛夕は感情を隠すのが苦手な人で、いつも率直だった。特に今は不満そうに方怡を見ていた。