第782章 彼氏くらべ～

向淮は口角を引き攣らせ、もう一方のスリッパを拾い上げて、林婧の足元に直接置いた。190センチ近い身長でしゃがみ込み、普段は冷酷無情な人物が、この時ばかりは優しく諦めたように言った。「母さん、床暖房は入ってるけど、床は綺麗じゃないでしょう？裸足で歩くなんて。」

林婧は彼を軽く蹴り、彼のズボンに足の裏の汚れを擦り付けてから、やっとスリッパを履いた。

彼女のその小さな仕草を見て、向淮は口角を引き攣らせ、彼女が足を擦り付けた脚のあたりに視線を固定した。そこが汚れているのが見えた。

彼の視線に気づいたのか、林婧は鼻を鳴らした。「どうしたの？あなたの夕夕ちゃんがあなたに擦り付けるのはいいけど、お母さんが足を擦り付けたら嫌なの？」

向淮は「嫌というわけじゃないんですが、ただね、母さん、明日このズボンで夕夕の家に行くつもりだったんです。こんな風に汚されちゃうと……」

林婧は口を尖らせた。「何よ、このズボン一本しか持ってないの？」

向淮は「そういうわけじゃないんですが、今年新調したのはこれ一本だけで、ほら、お金がないから……貧乏で……」

林婧：！

彼女は冷ややかに鼻を鳴らした。「お金をだまし取ろうなんて考えないで！これは詐欺よ！」

向淮はズボンを払いながら立ち上がった。「まあいいや、実の母親だし文句は言えませんね。でも僕がお金を要求するのは、僕のためじゃなくて、お母さんのためですよ！」

林婧：？

向淮はゆっくりと口を開いた。「ほら、浜町であの人たちは僕のことを夕夕に養われているイケメンだって言ってますよね。年末年始に行って、支払いをするときに夕夕にお金を要求したら、婿入りすること自体は問題ないけど、向家や林家が持参金も出せないほど貧乏なんじゃないかって思われるかもしれませんよ？」

林婧：？？？？

彼女は本当に腹が立って、この息子を睨みつけた後、深く息を吸い、パジャマのポケットからキャッシュカードを取り出してテーブルに投げた。「はい、これ。とっくに用意してあったのよ！」

向淮はすぐにカードを受け取った。「まあ、母さん、もっと早く渡してくれれば、母子の絆も損なわれずに済んだのに。」

林婧は「……もう、うるさい！」

向淮は「義母には明後日帰ると言ってあります。その時は車で行きますが、今日は早めに行くわけにはいきません。義父母に嫌われたくないので。」