第301章 指一本を残して

紫色のエネルギーは夏天にしか見えなかった。紫色のエネルギーと掌が衝突した瞬間、両方が同時に消えた。

「あれ?」

座っていた男は少し驚いた。五割の力を込めた一撃が夏天に無効化されたのは、あまりにも信じがたいことだった。

「違う、お前は靈器を持っているな」その男は眉をひそめ、すぐに喜色を浮かべた。

夏天は相手が靈器に触れた時点で事態が悪化すると悟った。相手の顔に浮かんだ貪慾な表情を見て、自分の靈器を奪おうとしているのは明らかだった。そう思った瞬間、夏天は逃げる準備を始めていた。

「夏天、靈器を渡せば命は助けてやる」その男は夏天を見つめながら言った。

「何を言っているのか分からない」夏天は眉をひそめ、出口に目を向けた。どうやって逃げ出すか考えていた。

「お前たち二人で行け。奴から探し出せ」その男は夏天の近くに立つ二人を見て言った。「この二人は玄級中期の実力だ。まずはこの二人を相手にしろ」

夏天は躊躇することなく、その場から姿を消し、一瞬で一人の側面に現れた。

寸歩。

彼が使ったのは寸歩だった。相手の側面に現れた瞬間、含沙射影を放ち、二本指で相手の太陽穴を貫いた。これらは電光石火の間に起こり、その後夏天は再び身を翻した。

含沙射影を再び放ち、もう一人を撃ち、指を凝らして二人目も倒した。

玄級中期の達人二人が、夏天の前で反撃する余裕もなく、あっさりと命を落とした。夏天の動きを見た男は一瞬驚いたが、すぐにより一層興奮した。今や夏天が確実に靈器を持っていると確信した。靈器なしでは、玄級の実力で二人を瞬殺することなど不可能だからだ。

「死ね!」その男は瞬時に夏天の傍らに現れた。夏天は相手がどうやって近づいてきたのか見えなかったが、すでに拳が間近に迫っていた。

今となっては防御することは不可能だった。しかもその一撃に込められた威力を感じ取ることができた。

たとえ防御しても、絶対に防ぎきれない。

「これで死ぬのか」夏天は心の中で呟いた。

カン!

その時、一本の鉄扇が現れ、拳に叩きつけられ、金属の衝突音が響いた。その男は拳を引き、同時に出口の方を見た。

「おい、誰が彼に手を出していいと言った」出口に現れたのはSSS級の殺し屋、陌璃だった。彼女の武器、鉄扇が姿を現していた。