しかし、すぐに彼女の笑顔は消え、代わりに目がうるんでいた。
彼女は急いでコートを掴むと羽織り、葉辰と孫怡に言った。「江南に帰ってきます。」
そう言うと、リビングから姿を消し、外へと向かった。
夏若雪が去ってしばらくしてから、葉辰と孫怡はようやく反応した。
孫怡は立ち上がり、玄関を覗いてから、少し困惑した様子で葉辰に言った。「辰ちゃん、若雪に何かあったのかしら?バッグも持っていかなかったわ。」
葉辰の目は少し重々しかった。しばらく一緒に過ごしてきて、彼も夏如雪のことをある程度理解していた。
夏若雪をこれほど動揺させるのは、必ず極めて深刻な事態が起こったに違いない。
もしかして江南省の夏家に何かあったのだろうか?
葉辰はバルコニーに行き、葉凌天に電話をかけた。
江南省は葉凌天の縄張りだ。この件について彼に聞くのが最適だろう。
「殿様?」
「最近、夏家に何かあったか調べてくれ。情報があり次第、すぐに報告してくれ。」と葉辰は言った。
「はい、殿様!」
電話が切れた。
葉辰はポケットからタバコを取り出し、一本に火をつけて口に咥えた。一服吸ったところで電話が鳴り、彼はやむを得ず手にしたタバコを消した。
「殿様、調査によると、夏家の夫婦が老人を連れて江南省第一病院に行ったそうです。恐らく夏如雪の祖母に何かあったようです。」
葉凌天の言葉を聞いて、葉辰は眉をしかめた。誕生日パーティーの日、彼は夏若雪の祖母に注目していた。体は丈夫そうで、大きな病気もなさそうだった。どうして突然何かあったのだろうか?
しかし、年を取れば思わぬことも起こりうる。葉辰はそれ以上深く考えなかった。
そのとき、葉凌天は続けて言った。「殿様、他にもいくつか報告すべきことがあります。」
「言え!」
「秦家が峨眉山から戻ってきました。誕生日パーティーの件は必ず彼らの耳に入るでしょう。そうなれば、殿様に対して何か仕掛けてくる可能性があります。」
葉辰は両手を背中で組み、江城の景色を見下ろしながら口を開いた。「江城はやはり小さすぎるな。こうしよう、明日の朝、江南省に行く。」