夏若雪は秦正陽のこの数言を聞いて、瞳を少し縮めた。
その言葉から、彼女は二つのことを知った。
第一に、秦家がついに崑崙山から戻ってくるということ!
第二に、あの崑崙山の高人が秦家に招かれて来るということ。
「くそっ!」
彼女の瞳には怒りと戸惑いの色が浮かんでいた。
秦家が今回戻ってくるとき、もしあの高人が噂通りだったら、江南省全体が大きく変わることになる!
さらに重要なのは、自分の婚約を抵抗できなくなるということだ!
彼女は真っ先に葉辰のことを思い浮かべた。
今の状況で、葉辰に何か方法があるだろうか?
葉辰は唐傲を斬殺できたことから、少なくとも彼の武道の実力が弱くないことは明らかだ!
問題は、葉辰には自分の勢力がないということだ!
天正グループはせいぜい一企業で、金儲けの道具に過ぎない。
秦家のこれほど多くの強者と比べようとしても、到底無理だ!
さらに重要なのは、秦家の背後に今回、崑崙山の強者が控えているということだ。
夏若雪はこれほど焦燥感を感じたことがなかった。必死に冷静さを取り戻そうとしたが、全く無理だった。
階下からはすでに葉辰の催促の声が聞こえてきた。
夏若雪は軽く唇を噛み、スーツケースを開けて中からお守りを取り出し、それから階下に降りて葉辰の前に来た。
「これをあげる。わたしがあなたのために特別にお願いしたの。」夏若雪は心の中のもやもやを払いのけ、何事もなかったかのように装った。
葉辰は一瞬驚き、そのお守りを見つめ、口元に笑みを浮かべた。
瞳には優しさが満ちていた。
彼の今の実力では、お守りなど必要ないのだ。
しかも、このようなお守りには霊気も功徳の光も全くなく、大した効果はない。
そうは言っても、葉辰はそれを指摘せず、お守りを身につけた。
「若雪、これが君が僕にくれるお土産? 最近のお土産は心がこもってるんだな?」葉辰は笑いながら言った。
夏若雪は少し上の空で答えた:「あなたが身につけてくれればいいの。とても似合うわ。ちょっと用事があるから、出かけてくるわ。」