第4章 母親のいない子

彼は眉をひそめた。「席霖、一体どうしたんだ？」

　　「僕は楚おばさんが嫌いだ」霖ちゃんは唇を引き締めて直接言った。

　　席牧白は彼の気持ちをすぐに理解した。

　　「私と彼女が結婚するのが嫌なのか？」

　　「……」小さな子供は黙っていた。それは黙認したということだった。

　　「なぜ彼女が嫌いなんだ？」席牧白は問い返した。「彼女はお前によくしてくれているじゃないか」

　　楚天心が席霖によくしてくれているからこそ、彼は彼女との結婚に同意したのだった。どうせ誰と結婚しても構わないなら、より適した人を選んだ方がいい。

　　家族全員が楚天心を気に入っていて、楚天心と彼には長年の縁があり、さらに彼女が霖ちゃんによくしてくれているので、彼女を選ぶのは自然なことだった。

　　しかし、彼は思いもよらなかった。霖ちゃんが彼女を嫌いだなんて。

　　「彼女は僕を利用してあなたの機嫌を取ろうとしているんだ。僕をあなたに取り入るための道具だと思っている」

　　席牧白は顔を曇らせた。「なんてひどい言い方だ」

　　「事実は耳障りなんだ！」霖ちゃんの感情が高ぶってきた。「とにかく僕が何を言っても、あなたは気にしない。好きな人と結婚すればいい。僕はただの余計者だ」

　　洗面台から飛び降りると、小さな子供は怒って出て行こうとした。

　　「待て――」席牧白は冷たい声で命じた。「席霖、その態度は誰に教わったんだ？お前の教養はどこにいった？父親にそんな口のきき方をしていいのか？」

　　霖ちゃんはもともと不機嫌だったが、叱られてさらに憂鬱になった。

　　彼は振り返って強情に彼を見つめた。漆黒で純真な目には悲しみと不満が浮かんでいた。

　　「母親のいない子供は、教養がないんでしょう？」

　　席牧白は呆然とした……

　　彼が我に返った時には、霖ちゃんはすでに走り去っていた。

　　席牧白は追いかけ、ホテルの入り口でやっと彼を捕まえた。小さな体を振り向かせると、彼は子供の目に光る涙を見てしまった。

　　席霖は幼い頃から物静かで、本を1冊与えれば一日中静かに読んでいられるような子供だった。

　　彼は大人を心配させることもなく、泣き叫ぶこともなかった。

　　今日の彼は本当に普段と違っていた。これは席牧白が初めて彼の悲しそうで委屈そうな姿を見た瞬間だった。

　　夏星河が彼と離婚した時、霖ちゃんはまだ1歳にもなっていなかった。この3年間、子供は彼女に会ったこともなかった。

　　彼は子供が母親についてほとんど感情も考えもないだろうと思っていたが、まさか……すべて心の中に秘めていたとは。

　　席霖の気分が良くないので、席牧白は彼を連れて帰ろうと思った。

　　彼は席の母に電話をかけ、霖ちゃんを連れて帰った。帰り道で、霖ちゃんはずっと窓の外の夜景を見ていた。小さな背中は細くて寂しげだった。

　　席牧白は隣に座って何も言わなかった。車が病院を通り過ぎる時、彼は思わず中に入院している夏星河のことを思い出した。

　　彼女が今目覚めているかどうかわからない。

　　彼女のことを考えると、席牧白は避けられず彼女の現在の状況を思い浮かべた。夏星河がこんなにも落ちぶれてしまうとは、本当に彼の想像を超えていた。

　　もし霖ちゃんが母親の今の境遇を知ったら、きっとすごく悲しむだろう。

　　席牧白は当分の間、子供に彼女と会わせないことに決めた。霖ちゃんが見て傷つくのを避けるために……

　　紫玉別莊に戻った時、霖ちゃんはすでに眠っていた。

　　席牧白は彼を抱えてリビングに入ると、ポケットの携帯電話が突然鳴り出した。

　　「坊ちゃま、小坊ちゃまを私に任せてください」家政婦の俞ママが来て霖ちゃんを受け取った。

　　席牧白は子供を彼女に渡し、携帯電話を取り出して見ると、見知らぬ固定電話番号だった。

　　「もしもし？」彼は疑問に思いながら電話に出たが、予想外にも病院からの電話だった。

　　「席牧白様でしょうか？こちらは市立第一病院です」

　　「はい、私です。何かありましたか？」席牧白は疑問に思いながら尋ねたが、おそらく夏星河に関することだろうと推測した。