第268章 全く見知らぬ顔

「若奥様、大人しくしていただけませんか。さもないと薬を使わざるを得ませんよ」

  夏星河の目が一瞬光った。案の定、もう何も言わなくなった。

  丁おばさんとボディーガードは満足げに、彼女を押して素早く立ち去った。

  夏星河が病室を出るとすぐに、ここが市立第一病院だと分かった。

  通路には醫者や看護師、患者やその家族が行き交い、彼女を見かけた人々は皆、視線をさっと流すだけだった。

  誰も異常に気づいていない。

  しかし夏星河は細胞の一つ一つが違和感を覚えていた。

  目覚めてから、すべてがおかしくなっていた。でも、どう考えてもなぜなのか分からなかった。

  夏星河が考え込んでいる間に、彼らはついにエレベーターの前に到着した。

  エレベーターのドアが開いた瞬間、夏星河が中を覗き込むと、その瞬間、彼女は完全に呆然としてしまった!

  正面のエレベーターの壁には、光る鏡があった。ドアが開くと同時に、鏡には彼らの姿がはっきりと映し出された。

  丁おばさんは彼女の左側に立ち、ボディーガードの一人は右側に、もう一人は後ろで車椅子を押していた。

  彼女は車椅子に座っていた……

  しかし、車椅子に座っている女性は彼女ではなかった!

  その顔は彼女のものではなく、まったく違う、まったく見知らぬ顔だった!

  夏星河は目を見開き、鏡の中の女性も目を見開いた。

  彼女は急いで自分の顔を撫で、鏡の中の女性も自分の顔を撫でた。

  夏星河は本当に衝撃を受けた。

  普段は喜怒哀楽を表に出さず、精神力の強い彼女だが、今回は本当に呆然としてしまった。

  どうして……こんな姿になってしまったのだろう?

  丁おばさんは彼女の奇妙な行動を見て、ただ嘲笑うだけで何も言わなかった。

  彼女からすれば、この女性が狂人になっても不思議ではないと思っているのだろう。

  もしかしたら今の彼女は、本当に少し狂ってしまったのかもしれない……

  「私の名前は何?」突然、夏星河は彼女の手首をつかみ、鋭く尋ねた。