第270章 席家に連れ去られた

「姉の脳に腫瘍ができたんだけど、今は治療が終わったの。でも、ずっと昏睡状態から覚めないの。原因がわからないんだ」

　　「腫瘍は治ったの？」夏星河は驚いた。

　　「そう、治ったんだ。不思議なことに、化学療法を一度受けただけで治ったんだよ」

　　「……」これは確かに信じがたいことだった。

　　しかし、どうあれ、彼女の体が治ったのは良いことだ。

　　そして今、もっと信じがたいことを彼女は経験しているのだから、驚くことはないだろう。

　　「友人として、彼女に会いに行きたいんだけど、いいかな？」夏星河は再び尋ねた。

　　夏智は困ったように言った。「実は彼女は病院にいないんだ。席家に引き取られたんだ。でも、会いたいなら大丈夫だよ。私のところに来てくれれば、案内するから。そうだ、お嬢さん、お名前は何ていうんですか？姉の友達は少ないから、ちょっと気になって」

　　夏星河は、彼女を警戒して見つめている丁おばさんを横目で見て、直接答えた。「夏夢よ。葉家の夏夢」

　　「まさか私たちと同じ苗字なんて、夏さん、今度何かあったら私に電話してください」

　　「わかった……」夏星河は仕方なく電話を切った。夏智に自分が夏星河だとは言えなかった。

　　夏智が信じてくれるかどうかはさておき、傍にいる丁おばさんたちが見ているので、むやみに話すこともできない。

　　そして、自分の身分を証明する確信がないうちは、軽々しく話すのは危険だ。

　　精神病扱いされて閉じ込められたら、元も子もない。

　　それに今は、まず夏夢の過去について知りたい。そうすれば、なぜ突然彼女になってしまったのか、真相の手がかりが見つかるかもしれない。

　　一方、夏智は電話を切り、隣で運転している蕭墨が興味深そうに尋ねた。「誰からの電話？」

　　「夏という名前の女性からだよ。姉の友達だって言って、会いたがってた」夏智は答えた。

　　蕭墨は不思議に思った。「夏さんの友達なら、どうして彼女に直接電話しないで、君に電話したんだ？」

　　「そうだね」夏智も不思議に思った。夏星河の電話は通じるはずだし、誰かが出るはずだ。

　　なぜ彼女に直接電話しなかったんだろう？

　　「たぶん姉が昔知り合った友達なんじゃないかな。姉は昔、携帯を持ってなかったし」夏智はこの説明しか思いつかなかった。