第605章 1人の計算漏れ

そのため、彼女は前もって黎亞たちをA市に潜伏させ、数人で待ち合わせ場所を決めていた。

彼らが会えば、林家が自ら門前に来るのを待つだけだった。

夏星河は全てを計算していたが、たった一人だけ見落としていた!

それは童嫣だった。

彼女は本当に予想していなかった。童嫣が気まぐれなだけでなく、林家のために進んで彼女に手を出すとは。

お嬢様という身分の人が、他人のためにこんな過ちを犯すなんて。

これは夏星河が予想もしなかったことだった……

しかし、これらは全て後になって知ったことだった。

……

夏星河が少し様子がおかしいと気付いた時には、車はすでに元のルートから外れていた。

「これは空港への道ではないようですが」彼女は即座に車内の警備員に疑問を投げかけた。

警備員は真面目な顔で答えた。「この道の方が近いんです。夏さん、ご心配なく、必ず安全に空港までお送りします」

夏星河は心の中で何か違和感を覚えたが、まだ確信は持てなかった。

結局、彼は大統領夫人が直々に送り出した人なのだから、問題はないはずだ。

しかし車は、どんどん外れた道を進んでいくようだった……

大統領府はもともと人里離れた場所にあり、周辺にはほとんど人が住んでいない。

今や車は長時間走り続けているのに、まだ人里離れた場所で、人影一つ見えない。

夏星河の心の中の疑念は大きくなっていった。

彼女は否応なく、何か問題があるのではないかと疑わざるを得なかった。

しかし、彼女がこっそりメッセージを送ろうとした時、特殊訓練を受けた警備員はすぐに彼女の動きに気付いた。

「夏さん、電話はしない方がいいですよ。ご安心ください、私たちはあなたに危害を加えるつもりはありません」警備員は鋭い目つきで、淡々と彼女に注意を促した。

やはり何かあるのだ!

「あなたたち、何をするつもり?」夏星河は驚くことなく、冷静に尋ねた。

しかし警備員は彼女の反応に少し驚いた。彼女は冷静すぎる。

この女は、やはり只者ではない。

「あなたに会いたい人がいるので、そこまでお連れします」

「誰?」

「着けば分かります」

夏星河はもう話さなかった。彼女は林家の人間か童嫣のどちらかだろうと疑っていた。警備員を買収できるのは彼らしかいないはずだ。

まさか大統領府の警備員まで買収されるとは……