第676章 彼女の新たな征途

彼女にはきっと分からないだろう。この世界で最も贅沢なものは感情なのだということを。

親愛、恋愛、友情……すべては互いが真心を込めて維持し続けてこそ、永遠に続くのだ。

当たり前のように享受する人は、結局本当の感情を得ることはできない。

さらには、すべてを失うことになるかもしれない。

……

童嫣の気持ちがどうであれ、夏星河は少しも気にかける気はなかった。

彼女は今、R国へ向けて出発の準備をしているところだった。

それは彼女の新たな挑戦となる。未来に何が待ち受けているかは分からないけれど。

しかし夏星河は常に全力を尽くし、今やるべきことをしっかりとやり遂げるつもりだった。

席牧白は彼女のためにすべての準備を整え、自ら空港まで見送りに来た。

彼は一緒に行きたかったが、今は全く抜け出せない状況だった。

数ヶ月前の出来事以来、彼は会社の経営に関わっていなかった。席家は今のところ順調に運営されているものの、それは一時的なものに過ぎない。

会社は一時的に彼がいなくても大丈夫だが、永遠に彼がいないわけにはいかない。

彼も今は会社に戻って仕事を処理しなければならない。そうしなければ、彼の歩みも止まってしまうだろう。

それに夏星河は今回、沈家の身分としてR国へ行くのだから、彼が行っても意味がない。

最も重要なのは、夏星河が彼に来てほしくないということだった……

「自分の体は大切にして、安全に気をつけてね。こちらの仕事が片付いたら、すぐに会いに行くから」席牧白は心配そうに彼女に言い聞かせた。

夏星河は軽く笑って言った。「私のことを信用していないの?それに、そんなに長くいないわ。きっとすぐに帰ってくるから」

「それならよかった。何かあったら必ず電話してくれ。一人で抱え込まないでね」

「うん」

「それと、僕のことを忘れないでね」席牧白は優しく彼女の頭を撫でながら言った。

「うん」夏星河は微笑みながら答え、席牧白も思わず笑みがこぼれ、最後にもう一度深く彼女を抱きしめた。

ついに時間が迫ってきて、彼は名残惜しそうに夏星河を飛行機に乗せた。

夏星河も名残惜しそうに彼に別れを告げ、機内へと向かった。

飛行機はすぐに離陸した……

窓際に座った夏星河は、まだその場に立ち尽くす席牧白の姿を見ることができた。