第307章 小さな女の子の歯はまだ生え揃っていない

司安然は地面に倒れ込んだままの小さな女の子を可笑しそうに見つめた。蘇言深に対して駄々をこねても無駄だと分かっていた。

彼女は近寄って、かがんで女の子をなだめた。「泣かないで、可愛い子。向こうにもっとたくさん風船があるわ。おばさんと一緒に取りに行きましょう」

司安然は道路の向かい側、晚卿園の入り口を指差した。そこには色とりどりの風船が、いくらでもあった。

「いやだ」小さな女の子は意外にも頑固に首を振って断った。

もう泣くのをやめ、自分で立ち上がった。

見たところ2歳にも満たないようで、白い靴下が彼女の小さな脚を締め付けて、掘り出したばかりのレンコンのように節々が見えていた。

黒い革靴のストラップも足の甲の肉を締め付けて、膨らませていた。

小さな女の子は周りの視線に気付かず、真剣に服についた埃を払っていた。少しの汚れも全部取り除こうとし、胸元に付いた赤い紙切れは、小さな手で何度も取ろうとしたが取れなかった。

また失敗すると、突然イライラして服を引っ張り始めた。「いやぁ...いやぁ...」

歯がまだ生え揃っていない様子が、その表情からよく分かった。

皆は眉をひそめ、信じられない様子でその小さな子を見つめた。こんなに小さいのに、もうこんなに短気なのかと。

しかし...もっと激しい行動が続いた。

小さな女の子は突然両手を上げ、頭を抱えて自分の髪の毛を激しく引っ張り始めた。

きれいに結われていたツインテールが乱れてしまった。

許昭は舌打ちして感心した。「これは潔癖症の最高峰じゃないか...」

「本当に不快なんだろう」蘇言深が言葉を続けた。彼は長い脚で二歩進んで女の子の前に立ち、身を屈めて手を伸ばし、彼女の胸元の赤い紙切れを取り除いた。

そして体を起こし、女の子を見下ろして言った。「もうないよ」

小さな女の子は顔を上げた。今日は日差しが強く、まぶしそうに目を細めている。ぽっちゃりした小さな顔が日光に照らされて、より一層桃色に輝いていた。

小さな女の子は口を開けていた。おそらく歯が生えてくる時期で、口角から涎が垂れていた。蘇言深はそれを見て、なぜか心が柔らかくなり、思わず笑みがこぼれた。

司安然と許昭は蘇言深の笑顔を見て、とても驚いた。

彼らはもう長い間、蘇言深が自然に笑うのを見ていなかった。

本当に珍しいことだった。