第550章 顔は嫁に叩かれた

蘇言深は頭を下げたままエレベーターに乗り、横向きにエレベーターの壁に寄りかかって、今夜の薬を盛られた件について考え始めた。

「私は燕の巣が好きじゃないから、蘇社長、交換しませんか...」

方前進親子の共謀だったのだろうか？

もし彼らだとしたら、動機は何だろう。彼と'義理の妹さん'の弱みを握って、脅すつもりか？

エレベーターはすぐに1階に到着し、許昭はエレベーターの外で蘇言深を待っていた。この短い間に既に10回以上あくびをしていた。

犬のように疲れていた！

彼の仕事はITプログラマーよりもっと大変で、昼夜を問わず、職種も関係なく働いていた。

エレベーターのドアが開き、蘇言深が出てくると、許昭はすぐに気を引き締めて、「蘇社長」と声をかけた。

彼が顔を上げると蘇言深の顔に手形が付いているのを見て、驚いて顔が真っ青になった。「蘇社長、お顔が...」

彼は目を見開いて、心臓が飛び出しそうなほど緊張して、'誰に殴られたんですか'という言葉を口にする勇気が出なかった。

なんてこった、世の中にまだ蘇さんの顔を平手打ちする勇気のある人がいるなんて、本当に勇敢だ。

しかし蘇言深は全く気にする様子もなく、さらりと「妻にやられた」と言った。

まるで誇らしげで面目を保てたかのように...

許昭は納得して、黙った。

そうだろうと思った。奥様以外に、誰が彼の顔に手を出せるだろうか。

蘇言深は許昭の表情の変化に気づき、歩きながら尋ねた。「調査はどうだ？」

彼は俞晚晚と情事を終えた後、許昭に薬物の件を調べるよう指示していた。

許昭は答えた。「あの二杯の燕の巣は確かにサービスでしたが、ホテルからではなく、他の個室からのものでした。」

「どの個室だ？」蘇言深は一瞬足を止めて尋ね、すぐに通常の歩調に戻った。

「2号室です。夜に秦さんの同級生が2号室で誕生日を祝っていて、2号室の客が二杯の燕の巣デザートを秦さんと方さんに送ったそうです。」

許昭は秦悅が俞晚晚だと知っていたが、蘇言深の意向で公にしないよう、今でも俞晚晚のことを秦さんと呼んでいた。

蘇言深はそれを聞いて、うなずいた。「分かった。」

彼は特に感情を表に出さなかった。

ただ心の中でほっとした。幸い方前進親子が晚晚と彼に仕掛けた罠ではなかった。