第663章 婚約者のあなたは、私に近づかないで

蘇言深は軽く頷いた。「それは私と妻の光栄です」

梅香夫人が去った後、蘇言深は俞晚晚を抱きかかえて階段を上がった。

エレベーターを出ると、俞晚晚は蘇言深の手を振りほどき、声を押し殺して責めた。「なぜ私の身分を明かしたの？」

蘇言深は無力な様子で手を広げた。「そうしないと、私たちは不道徳という汚名を着ることになる」

俞晚晚は冷笑した。「背負ってきた汚名はもう十分でしょ、これ以上増やす必要ある？」

蘇言深は質問に答えず言った。「明日、梅香夫人が私たちを食事に招待したいそうだ。明日の午前中に服を買いに行こう」

彼は少し茶目っ気のある表情をしていた。

俞晚晚は怒りが収まらなかった。「行かないわ。あなたはパートナーを連れてきたことを忘れないで」

彼女はそう言って振り向くと、角を曲がったところに立っている司安然を見て、呆然とした。

蘇言深がこのように彼女の身分を公表したということは、彼がまだ既婚者であることを意味する。では、彼と司安然の関係はどうなるのだろう？

そのことを考えていると、司安然が口を開いた。「あなたが俞晚晚だったのね」

俞晚晚は司安然にどう返答すべきか分からず、軽く頷いただけだった。「うん」

彼女は司安然に敵意を持っていなかった。むしろこの瞬間、彼女を少し気の毒に思った。司安然が蘇言深を好きなのは明らかだったからだ。

司安然は何かに気づいたような表情をした。「なるほど」

彼女は頷き、視線を蘇言深に向けると、自嘲の笑みが口元に広がった。

しかし司安然は強情で誇り高かった。彼女は蘇言深と俞晚晚の前で完全に感情をさらけ出すことはなく、ただ声が少し冷たくなっただけだった。「約束があるの。蘇會長が帰るときに私も一緒に帰る必要があれば、空港で会いましょう」

そう言うと彼女は足を踏み出し、落ち着いた様子でエレベーターホールに向かい、エレベーターに乗り込んだ。

俞晚晚は司安然の「なるほど」という言葉が何を意味するのか分からなかったが、確かに何かを暗示していた。

再び蘇言深と俞晚晚の二人だけになった。

俞晚晚は司安然が乗ったエレベーターから視線を移し、再び蘇言深に目を向けた。

一瞥しただけで、何も言わなかった。

そして彼女は足を踏み出し、蘇言深の部屋の方向へ歩き始めた。