「陸社長。」
「梁院長。」
陸墨擎はベッドのそばから立ち上がり、梁院長の前まで歩み寄り、軽く頭を下げて挨拶とした。
「陸社長、陸さんの状態については、栩栩から聞いていると思いますが、改めて説明させていただきます。」
梁院長が口を開き、表情はややシリアスだった。一方、陸歆瞳は喬栩の名前を聞いて、自然と顔に嫌悪感が浮かんだが、自分の病状に関わることなので、当然聞かなければならなかった。
「陸さんの状態はとても深刻で、もう先延ばしにはできません。できるだけ早く心臓移植手術を行うことをお勧めします。」
実際、陸家の財力と影響力があれば、陸歆瞳の移植手術はとっくに行えたはずだ。
しかし、陸歆瞳はとても臆病で、手術台で死んでしまうのではないかと常に考え、どうしても承諾しなかった。
今回は、妊娠も加わって心臓への負担がさらに大きくなり、すでに心不全の状態に陥っていた。これ以上先延ばしにするわけにはいかない。
陸歆瞳も心の中では分かっていたが、それでも怖かった。手を宋御の手にしっかりと握り締め、目に隠しきれない恐怖を浮かべていた。
「では、梁院長にできるだけ早く手配をお願いします。」
陸墨擎の口調は相変わらず淡々としていたが、目に隠された心配は隠しきれていなかった。
「はい、適合する心臓が見つかり次第、すぐに陸さんの手術を手配します。執刀医は先日陸さんを救命した喬先生です。皆様、ご安心ください。喬先生の医術には絶対に問題ありません。」
陸墨擎は喬栩と婚姻届は出したものの、結婚式は挙げていなかった。
彼の言葉によれば、喬栩と結婚すること自体が彼の限界であり、この彼が認めていない婚姻関係を公にするつもりは全くないということだった。
当時、喬長官は多少不満げだったが、孫娘が相手を好きで、相手の言うことに全て同意するのを見て、最終的には彼女の意思を尊重するしかなかった。
そのため、陸墨擎が結婚したことを知っているのはごく一部の人間だけで、彼の奥さんの身元を知っている人はさらに少なく、梁院長ももちろん例外ではなかった。
「何ですって?喬栩に私の手術をさせるんですか?」
陸歆瞳の口調には、突然の拒否感が生まれ、梁院長の笑顔を浮かべていた口元が急に固まった。
「陸さん、喬先生に何か誤解があるのでしょうか?」