321.人を連れてくる

  上層階に着くと、陸墨擎は食事の入った箱を持ってオフィスに向かったが、また顧君航に呼び止められた。

  「墨擎」

  陸墨擎が振り返ると、顧君航が彼の方に歩いてくるのが見えた。しばらく考えた後、こう言った。「彼女を忘れられないなら、8年前のことを忘れたらどうだ。人生にそんなに多くの8年を無駄にする余裕はないだろう」

  兄弟として、彼が言えるのはこれくらいだった。どう選ぶかは、結局陸墨擎自身が決めることだ。

  陸墨擎は彼を一瞥し、苦笑いを浮かべたが何も言わず、自分のオフィスに向かって歩き出した。

  陸墨擎がドアを開けて入ってきたとき、喬栩はまだ手元の書類を見ていた。物音を聞いて、彼女は無意識に顔を上げ、ちょうど陸墨擎が彼女を見ているのに気づいた。

  「昼食を買ってきたから、食べに来て」

  喬栩は一瞬驚いた。陸墨擎が先ほど出かけたのは、わざわざ彼女のために昼食を買いに行ったとは思っていなかった。

  今はネットでさまざまなデリバリーアプリがあるのに、陸墨擎が直接買いに行くとは思いもよらなかった。

  「ありがとう」

  心の中の違和感を押し殺して、彼女は手元の書類を置き、立ち上がって近づいた。

  座ったばかりのとき、陸墨擎の携帯が鳴り出した。受付室で罰を受けている蔣せめられやくからの電話だった。

  喬栩には蔣浩が何を言ったのか聞こえなかったが、陸墨擎が蔣浩からの電話を受けたとき、顔色が恐ろしいほど冷たくなるのが見えた。

  「後で連れてこい」

  彼は顔を曇らせたまま電話を切り、ソファに座っている喬栩の方を見た。元々冷たかった表情が少し和らいだ。

  「この食事は好みかい?好きじゃなかったら、もう一度買いに行くよ」

  喬栩の視線は、開けられた食事の箱の中を一瞥した。すべて淡白な料理だった。

  淡白ではあるが、調理法は非常に繊細で、見た目だけでも食欲をそそられそうだった。

  「大丈夫です。私は好き嫌いはありません」

  彼女は箸を取り、ご飯を持って一口一口食べていたが、目の端で陸墨擎の視線が彼女の顔から離れていないのに気づき、居心地が悪くなってきた。