347.彼に盗み Kiss

「じゃあ、お願いするわ、柔ちゃん。あなたって本当に良い子ね。あの喬栩みたいな下劣な女とは大違いよ」

　　喬栩の話になると、陸昕瞳の顔には嫌悪と軽蔑の色が浮かんだ。

　　蘇柔は目を伏せ、唇の端に計算高そうな笑みを浮かべた。

　　「先に帰ったら？長く出てるから、そろそろ小宝が泣き出すわよ」

　　蘇柔は陸昕瞳を思いやるような態度を示しながら、心の中では陸昕瞳が病室から早く出て行ってくれることを願っていた。

　　陸昕瞳は深く考えずに、すぐに頷いて言った。「そうね、急いで帰らないと。じゃあ、お兄ちゃんをよろしくお願いします」

　　「安心して。墨擎のことはしっかり看病するわ」

　　陸昕瞳が去った後、蘇柔は陸墨擎のベッドサイドに座り、布団の上に置かれた彼の手を取って強く握りしめた。目には憧れと執着の色が宿った。

　　これが彼女にとって初めて陸墨擎にこんなに近づける機会だった。端正な顔立ちは、まるで神が丹精込めて彫刻した芸術品のようで、一筋一筋の線が完璧で欠点を見つけることができなかった。

　　蘇柔はただ静かに彼を見つめ、思わず心臓の鼓動が早くなるのを感じた。

　　彼女は認めざるを得なかった。たとえ陸墨擎が彼女に対してどれほど厳しい言葉を浴びせようとも、彼女は思わず彼に近づきたくなり、抗えずに彼に魅了されてしまう。まるで火に飛び込む蛾のように、死ぬまで止まらないのだった。

　　彼女の手が、そっと陸墨擎の顔に触れた。心臓の鼓動が思わず速くなり、体がゆっくりと屈み、少しずつ陸墨擎の血の気のない唇に近づいていった。

　　目には隠しきれない欲望が宿っていた。

　　「墨擎、あなたは私のもの。私はあなたが大好き、本当に大好きなの。わかる？」

　　彼女の唇が陸墨擎の唇に近づき、お互いの息遣いが交わるのを感じながら、蘇柔の頭の中は陸墨擎との交わりの光景でいっぱいになり、顔がどんどん赤くなり、心臓の鼓動もますます速くなった。

　　「墨擎……」

　　彼女の唇が陸墨擎の唇に向かって落ちていったが、触れる寸前で、陸墨擎の手首に置いていた手が突然強い力で掴まれた。

　　次の瞬間、陸墨擎の閉じていた両目が突然開いた。蘇柔の目は、その黒い沼のような瞳の中に直接飛び込んだ。この目は、まるで人を食らう野獣のようで、彼女を見つめるだけで、全身を千切りにされたような感覚に陥れた。