「正直、ここで権力のある人をたくさん見てきましたが、陸さまのような方は初めてです。雑誌で見るよりもずっとハンサムで、その雰囲気といったら、まあ……」
「彼と一晩過ごせるなら、お金なんていらないわ……」
「あなたなんかには無理よ。ここには彼と無料で寝たいと思っている女性がたくさんいるんだから、あなたの番なんて回ってこないわ……」
「……」
これらの人々が話題にしている陸さまのことを聞きながら、目の前で丁寧に笑顔を浮かべている蔣浩を見て、喬栩は先ほどの女性たちが話していた陸さまが誰なのかを聞くまでもなく分かっていた。
脇に置いた手が、わずかに強く握りしめられたが、すぐにまた緩んだ。
彼女は何を気にしているのだろうか。
すでに彼と離婚したのだから、彼が遊びに出かけようと、誰と遊ぼうと、彼女には何の関係もないはずだ。
喬栩は心の中で自分を激しく叱りつけ、フロントのスタッフに目を向けて尋ねた。「すみません、見つかりましたか?」
「申し訳ありません。夏語默様のお名前はございませんでした。もしかしたら他の方のお名前で予約されているかもしれません」
返事を聞いた喬栩の眉間にはさらに深いしわが寄った。
そして、ずっと喬栩と話す機会を探っていた蔣浩は、すぐに前に出て、笑顔で言った。「奥様、このクラブは私どもの社長の友人が経営しているんです。夏弁護士をお探しでしたら、中に入って社長に聞いてもらうことができますよ」
蔣はははまた、自社のボスのためにチャンスを作ろうと懸命だった。まだ個室で失恋の酒を飲んでいる自社のボスのことを思うと、蔣浩は改めて自分がいかに心を砕いているアシスタントであるかを実感した。
「結構です」
喬栩は考えるまでもなく即座に断り、再び携帯電話を取り出して夏語默に電話をかけ始めた。電話をかけながら個室の方向に歩いていく。
夏語默の携帯電話は、まだ誰も出ない。喬栩の心の中でさらに不安が募っていった。
そのとき、右手の個室のドアが開いた。喬栩は思わず横目で見やると、落胆と失意に満ちた顔を目にした。
喬栩はその顔を見て、数秒間呆然としてしまい、やっと我に返った。
彼女はこんな時に陸墨擎に会うとは思っていなかった。彼の今の姿は、彼女を驚かせた。