554.彼女はこの男が欲しい

林媛がようやく追いついたとき、陸墨擎が既に助手席のドアを開けて座り、運転手が後部座席のドアを開けて彼女を待っているのが見えた。

林媛は彼が助手席に座ったのを見て、少し落胆した。彼の隣に座れると思っていたのに。

「林さん、どうぞ」

「ありがとうございます」

彼女は運転手に優しくお礼を言って、車内に座った。

数千万円の限定版高級車に、林媛は自分の人生でこんな車に触れることすらないだろうと思っていた。まして乗ることなど、運転手がわざわざドアを開けてくれることなど。

車はゆっくりと病院を離れ、林媛は車内で高価な本革シートに触れながら、お金の匂いが漂う空間に心を奪われていた。

古代の帝王のような生活、彼女もそれが欲しかった。

助手席に座る男性に目を向けると、その類まれな美しい輪郭、完璧な横顔。

高貴な身分と何世代使っても使い切れない財産を合わせると、これほど完璧な男性がいるだろうか。なぜ喬栩にはこんな素晴らしい運命があって、こんな男性と結婚できるのに、自分にはできないのか。

彼女は陸墨擎を見つめる眼差しに、次第に深まる執着と欲望を込めていた。彼女は、この男性を心の底から欲していた。

彼女はこの男性の心を動かすことばかりに気を取られ、本来注意すべきことを見落としていた。

30分後、車は彼女が借りているマンションの前で止まった。

「社長、着きました」

運転手の声に、陸墨擎の顔に釘付けになっていた林媛の目は慌てて逸らされた。

「降りなさい」

陸墨擎の視線が林媛に向けられ、たった一瞬の眼差しだけで、林媛は心臓が飛び出しそうになった。

先ほどの陸さまの眼差しは、まるで毒蛇が彼女を殺そうとするかのように鋭かった。

怖い。

林媛は激しく鼓動する心臓を押さえながら、車から降りた。

エレベーターがゆっくりと自分の階に向かい、陸墨擎の後ろについてエレベーターを出た。

運転手が一緒に上がってこなかったことで陸墨擎と二人きりになれると密かに喜んでいた時、ドアの前に数人の男性が立っているのを見た。

先頭に立つ男性は高価な紺色のスーツを着て、金縁の眼鏡をかけ、適度な笑みを浮かべており、どこか物腰の柔らかな印象を与えた。

陸墨擎を見ると、その男性は早足で近づき、恭しく「社長」と言った。

この人物こそが蔣浩だった。