619.写真の少女

しかし彼女は相手の厚かましさを過小評価していた。彼女が近づいた時、顔を横に向けられ、喬栩は直接彼の唇に触れてしまった。

相手の目に浮かぶ得意げで狡猾な笑みを見て、彼女の顔は一瞬にして曇った。

陸墨擎の唇から離れようとした時、彼の方が一歩早く、彼女の後頭部を押さえ、そのキスを深めた。

十分にキスを交わした後、彼は名残惜しそうに彼女を放した。

「奥さん、一緒に会社に来ないか」

彼はネクタイを締めながら、期待を込めて喬栩を見つめた。

「行かないわ。やることがたくさんあるの」

喬栩の視線はパソコンの画面に留まったまま、彼に対する不満を顔に表していた。

「私のオフィスで仕事をしても同じだろう」

彼は喬栩の傍に寄り、オフィスチェアの肘掛けに腰掛け、長い腕を彼女の体に回して、まるで彼女全体を包み込むかのようだった。

「行かないわ」

「来てよ。会社は君のものなんだから、私一人に任せっきりにするわけにはいかないだろう」

陸墨擎は身を屈めて、また可哀想な振りを始めた。

喬栩は彼の「会社は君のもの」という言葉を全く気にしていなかった。

今は再婚の手続きさえしていないのに、たとえ手続きをしたとしても、せいぜい夫婦共有財産になるだけで、どうして彼女のものになるというのだろう。

それに、彼女は陸墨擎の持ち物を欲しいと思ったことは一度もなかった。

それにもかかわらず、最終的に陸墨擎は甘い言葉で喬栩を会社に連れて行くことに成功した。

「社長、奥様、おはようございます」

「社長、奥様、おはようございます」

「……」

最上階の社長室まで「奥様」という言葉を聞きながら上がっていった。以前から喬栩が陸氏に来ていたことと、社長がSNSで度々ラブラブな投稿をしていたことから、陸氏の社員全員が、奥様への敬意は社長への敬意以上に重要だということを知っていた。

「社長、会議が始まります」

「ああ」

陸墨擎は軽く返事をし、秘書が出て行った後、傍らにいる喬栩に近づいて言った。

「奥さん、一緒に会議に出ないか」

「行かないわ」

喬栩は考えるまでもなく断った。突然会社に来ただけでも居心地が悪かった。

確かに今は外から見れば正当な立場にいるのかもしれないが、彼女自身の心の中では非常に違和感があった。