第205章 枠

栗原愛南は唇を引き締めた。

  彼女は視線を病床にいる栗原奥様南條静佳に向けた……栗原叔父さんの彼女に対する守護と、彼女のために病院を血で洗うかのような狂気を思い出した。

  彼女は思わず、南條静佳と栗原叔父さんの間に何か物語があるのではないかと疑った。

  それなら彼女は栗原叔父さんに会いに行くべきだろうか?

  栗原愛南は迷いに陥った。

  栗原郁子が以前躊躇なく人に会いに行ったのは、取り入る心があったからで、森川辰に自分の人脈を知らせたかったのだが、栗原愛南にはそんなものは必要ない。

  栗原文彰と栗原叔父さんの会話から、明らかに南條静佳は栗原叔父さんに会いたくないようだった。だから南條静佳の娘として、彼女の立場はもちろん母親と同じでなければならない!

  そう考えると、栗原愛南はすぐにメッセージを返信した:【申し訳ありませんが、母が同意したら行きます。】

  このメッセージを送る時、なぜかわからないが、心の底に言いようのない幸福感があった。

  小さい頃、他の人はいつも「お母さんが許してくれない」と何かをしないと言っていた。後にはネット上で「お母さんがバカと遊ぶなと言った」というフレーズまで流行った。

  でも彼女はこういう言葉を見るたびに、少し呆然としてしまう。

  なぜなら、彼女の「お母さん」は郁子お嬢様の命令に逆らわないように、テストでいい点を取らないようにと言うだけで……彼女のためを思ったことは一度もなかったから。

  でも今、彼女にもいいお母さんができた。

  栗原愛南の瞳に水気が浮かんだ。彼女はまた栗原奥様のベッドの側に行き、彼女のもう一方の手を握った。口を開いたが、その二文字を言うのは難しかったが、それでも言った:「お母さん……」

  この二文字が出た瞬間、ずっと動きのなかった病床の栗原奥様の眼球が動いた。

  栗原愛南は何か感じたようで、振り向いて見ようとした時、突然携帯が鳴り出した。

  栗原愛南は着信表示をちらりと見て、もう一度栗原奥様を見てから、携帯を持って脇に行って電話に出た。

  彼女が栗原奥様の手を離した時、栗原奥様の指もわずかに動いたのを見逃した。