第304章 不倫現場

栗原愛南は知らなかった。抱擁がこんなにも温かく、心に安らぎを与えるものだとは。

抱きしめられた瞬間、空っぽだった心が満たされていくような感覚さえあった。

いつも強く、自立していた女性も、時には慰めと寄り添いを必要とするのだ。

彼女は彼の肩に頭を寄せた。

二人は静かに寄り添っていた。

森川北翔の低く響く声が彼女の耳に届いた。「愛南、君なのか?」

その声には不確かさが含まれていた。

栗原愛南は心の中でため息をつき、確認の言葉を口にしようとした矢先、玄関から突然の騒ぎ声が聞こえてきた。

彼女が雇った家政婦が驚いて叫んでいた。「何をしているんですか?ここは南條家ですよ。どうして勝手に入ってくるんですか?」

次に張本朔のお母さんのがなり立てる声が聞こえた。「何が南條家よ、あんたは誰なの?愛南はどこ?あんたがこうして入れないようにしているってことは、もしかして中で他の男とイチャついているんじゃないの?」