この言葉に栗原由奈と栗原美悠纪は呆然とした。
二人は揃って森川北翔を見た。
しかし、彼女たちにそのように見つめられ、指さされても、この大学生は相変わらず落ち着いて座っており、目の前のお茶をじっと見つめ、彼女たちを一瞥もしなかった。
栗原由奈は目を輝かせ、思わず栗原美悠纪を見た。「美悠纪、このイケメンは出身はあまり良くないけど、顔立ちはなかなかいいわ。もし森川北翔が彼くらいの顔だったら、きっと容姿端麗よ!あなた、今回大当たりね!」
栗原美悠纪も満足げな表情を浮かべた。
その時、遠くから突然低い「オエッ」という声が聞こえた。
二人が振り向くと、紀田杏結の顔色が突然変わり、胸を押さえて一度吐き気を催し、すぐにトイレに駆け込むのが見えた。
二人は嫌そうに口を歪め、再び振り向くと、目の前にいたはずの栗原井池の姿が消えていた。
……
紀田杏結が突然気分が悪くなり、妊娠初期の症状が現れたのは、栗原愛南と紀田杏結の予想外だった。
つい先ほどまで、紀田杏結は何も感じていなかった。
ウェイターが香ばしく焼いた魚のプレートを運んできたとき、その海鮮の生臭い匂いが鼻をつき、突然我慢できなくなったのだ。
栗原愛南は彼女の腕を支え、急いで隣のトイレに駆け込んだ。
紀田杏結は洗面台に向かって、しばらく空嘔吐を繰り返した後、最後に栗原愛南を軽く押しのけた。「愛南、大丈夫よ。先に出ていって。私はもう少しここにいるわ。」
栗原愛南は考えた末、無理強いしなかった。
結局、森川北翔がまだ外で座っていて、今日は紀田家の人も来ていた……
さっき紀田家の当主である紀田友太郎が森川北翔の方を見て、彼の方に数歩歩み寄ったようだったので、彼女の心に不安が芽生えた。そのため、うなずいて「何かあったら電話してね」と言った。
栗原愛南がトイレを出ると、再び森川北翔を見た。案の定、紀田友太郎が彼の前に立っていた。
栗原愛南は顎を引き締め、足早に近づいていった。すると紀田友太郎が口を開いた。「君の名前は?どこかで会ったことがあるかな?なぜか見覚えがあるんだが。」
森川北翔は心の中で紀田家に恨みを抱いていたので、この言葉を聞いても全く相手にせず、ただ視線を逸らした。